◆住宅のデザイン
デザイン住宅といえば、それだけで売れそうな気がします。
言葉でいうのは簡単ですが、では売れる住宅のデザインとはどんなデザインなのでしょうか。そして、本当に売れているデザインがあるのでしょうか。
デザイン住宅と称して、工務店さんにデザインを売っている組織もあります。
そのデザインが、限られた地域での戦略を必要とする工務店さんの戦略に、果たして適っているのでしょうか。正直、そのようにも思えません。
お客様の方も、デザインを見て、遠く離れた建築会社に依頼して、居住後のメンテと不便さを我慢する客はどれほどいるものでしょうか。デザインなどの設計依頼はあったとしても、建てるのであれば地元で信頼のある工務店に頼む方が無難です。
その上、デザインされた住宅が、地域に馴染むものであるかは分かりません。
そんな悪しき前例となる住宅建築を建てたのは、ル・コルビュジェです。
世界遺産の建築家ともなる偉人でも、生涯の内で環境に反するデザインを認められることはできなかったのです。
むしろ、建築家のいない建築こそ研究する価値がありそうです。
こうして考えると、住宅デザインを語ろうとするのは、とても難しいものです。
その難題の住宅デザインについて、書いてみたいと思いました。
できれば住宅の担い手である地域工務店の経営を観点にして住宅デザインを考え、工務店にもできるテクニックとしてまとめてみたいと思います。
◆地域戦略とデザイン
もしあなたが住宅デザイナーであれば、雑誌やサイトに取り上げられることは、とても大きな糧になると思い喜ぶでしょう。
でも、私が地域工務店であれば、自社のテリトリー外の人々に知られても、結果的に経営効率は下がることになりかねませんメディアミックスを理解して、巡り巡ってテリトリー内のお客様にも届くであろうと理解して、ようやく肯定できます。
そもそも、取り上げてくれる雑誌社の編集も、インスタ映えならぬ編集映えのする案件を求めているだけかもしれません。そして案件や物件、さらには作品や商品という言葉の中には、生活者の暮らしを感じられません。当然編集者にも住宅デザインを評価するだけの高いスキルが必要であるはずです。そうでなければ、編集者の好き嫌いや、珍しいとか変わっているというだけのことになりかねません。
一方で、地域工務店にとって、デザインは命綱だと思います。
なんといっても、自社のテリトリーの中に残してきた実績を無いものにはできません。たとえ雑誌などに取り上げられなくても、「あんな家を建てている会社なんだ・・・」と思われてしまっては大損です。
逆に、「あの工務店の家は、どこか趣がある・・・」とテリトリー内で評判が立てば、確実にスタンディングポイントを確保できます。地域での信頼を築くのに、実績である住宅のデザインは大きく貢献するはずです。ですから、ここで扱おうとする住宅デザインとは、インテリアデザインではなく外観デザインに絞られます。
インテリアは、住まい手が住みながら上手にデザイン性を上げることもできますし、縁がない限り通りがかりで見て判断されることもありません。しかし、外観デザインは道を通るたびに目につき、将来の顧客にサブリミナル的な影響を与えています。
取り外す事のできない、自社の看板のようなものです。
極端な表現と思われるかもしれませんが、間取りやインテリアはお客様の要望に対応するべきものかもしれませんが、外観デザインは施主以上に、工務店がこだわるべきものだと思います。
それほど、外観デザインは工務店経営に影響するのです。
◆デザインは好き嫌い
その肝心の住宅デザインですが、評価は簡単ではありません。
1つのデザインが絶対的に良いわけでもなく、特殊な人しかデザインできないものでもないはずです。
マスコミに弱い日本の国民性は、一度、雑誌やSNSで取り上げられると、そのデザインが良いと思ってしまいます。それが編集者のただの好奇の眼で見たものであればなおさら、住宅デザインの評価は悲しすぎます。
それでは収集がつきませんので、少し住宅デザインついて学ぶ必要があります。デザインには様式あり、その基本の中からデザイン・テクニックが導き出せれば、それなりの整理ができます。
住宅のデザイン様式の概略を知るには、住宅の先進国であるアメリカの資料が最適だと思います。世界の中でも建国が浅いアメリカだからこそ、J・M・ベーカーは、歴史ある欧州の建築様式を研究してアメリカの住宅に活かしています。そして、そのデザインが、アメリカの住宅の資産価値を向上させる一助となりました。そうです、デザインとは資産価値なのです。
欧米では、この 建築様式を学んで初めてデザイナーになれます。
残念ながら、日本の様式はないので、少し情報を加える必要があるかもしれません。
これらの事例に触れると、デザインの世界で黄金律のようにいわれる「Simple is best」が、住宅の世界では決して不変のテーマではなく、比較的限られた範囲で活かされているものだと思えてきます。
この辺が、広いテリトリーで住宅デザイナーとして勝負する設計士と、限られたテリトリーで住宅受注を目指す工務店とのデザインの差が出てくるところのように思えます。
1戸の目を引く住宅を建てれば売れるようになるデザイナーとは違い、テリトリー内のお客様により支持を受ける住宅デザインを考えておかなければならないのが地域工務店の能力であるということです。
◆住宅デザイン・テクニック
単純に、世界中にある住宅には、その地域毎に住民が心地よいと思う住宅デザインのパターンがあります。逆説的にいうと、良い住宅デザインだから残されてきたのだと考えることもできます。そのルールがわかれば、進めようもあります。
またさらに、様式よりも前に、根源的な感性のルールもあります。
たとえば、音楽の勉強をしていなくて譜面も読めない人でも、流れている音に違和感があれば演奏の間違いを知ることができます。
この瞬間は、好き嫌いよりももっと根源的な、快不快で判断しているものです。
普通の住民は、もちろん住宅の様式も知らないまま通りすがる家を見ています。
お客様になるような建築予定の顧客は、ちょっと気になる家だけを記憶するかもしれませんが、やはり住宅の様式を知っているとは思えません
でも、家を見て快不快の感情は生まれています。
このようなサブリミナル的な快不快のデザインを、語るのにはグラフィックデザイナーなら一度は学んでいる「ゲシュタルト心理学」が向いています。
先の音楽の違和感も、まさに聴覚の「ゲシュタルト崩壊」が起きているから自然と気づくことです。
最終的には「様式」も「ゲシュタルト」も、言葉として工務店経営が覚える必要はないと思いますが、ここから生まれる住宅のデザインパターンを、すぐにでも使える工務店のテクニックとして書いておきたいと思います。
住宅の「質」を評価する項目は、「性能」「機能」「デザイン」です。
テリトリー内で自社が建築する住宅の「質」が充実することは大事なことです。
耐震性や断熱気密などの「性能」や、使いやすさの「機能」に加えて、不快のデザインを無くし、快のデザインを増やすことを重ねれば、工務店にとって命となる地域戦略の基礎ができあがります。
奇しくも、こうした住宅デザインのヒントは、家を扱っていれば触れる人も多い吉田兼好の『徒然草』の中にも見出されます。少しずつ住まい文化にも触れながら、連載してゆければと思います。
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