(こちらの連載は新建ハウジング発行「だん6号」からの転載です。)
Kさんは40代の女性。同年代の夫と中学1年生と小6の男の子の4人家族です。Kさんご家族が家づくりを意識したのは約10年前。「知り合いが建てた家を見て、木の質感に魅了されました。その空間を体験してから自分の家がほしくなったのです」とKさんは振り返ります。
その知人宅を設計したのは建築家・松尾和也氏が主宰する松尾設計室。省エネルギー性能の高い住まいを設計することに長けた設計事務所です。
早速、K さんは松尾設計室にコンタクトを取りました。同時に土地を探し始めましたが、なかなか条件に合う土地がなく、購入には至りませんでした。
気がついたら家づくりを考えてから8年が経っていました。
そんなとき、Kさんの住む戸建て賃貸住宅の大家から「よかったら買わないか」と話がありました。Kさんは緑豊かなこの地域を気に入っていたので、この物件を購入し、松尾設計室に依頼してリノベーションを施すことにしました。
K 邸の外観。窓の配置などはほぼ既存と同じ。湿式外断熱工法で仕上げている。
左端のガラスの開き戸が日常動線となる通用口
効率的な断熱改修
早速Kさんは松尾設計室を訪ね、打ち合わせをします。今瀧裕士さんという同社のチーフ設計者が担当してくれることになりました。
株式会社松尾設計室 専務取締役 今瀧裕士氏
Kさんの一番の要望は冬暖かくて夏涼しい住まい。
既存の住宅は冬になると床下から冷たい風が入ってきて底冷えがしました。とにかく寒く、ダウンジャケットを着込んでストーブにあたるような暮らしぶりでした。
改修前のリビングの様子
改修前の玄関の様子
間取りに関しては、部屋同士につながりをもたせて広がりを感じさせるように要望、インテリアは木の質感を生かした落ち着いた雰囲気を希望しました。
要望をもとに今瀧さんは設計をまとめました。
費用対効果の視点から、改修はLDKなどの滞在時間が長いスペースがある1階を中心とし、2階は必要最小限に留める計画としました。
2019 年5月に工事がはじまりました。
1階は間取り変更のために天井と一部の壁や柱を撤去し、梁を補強します。そして浴室まわりを解体して、土台などの腐食個所を取り除いて健全な材と交換しました。
断熱改修には工夫が必要でした。床断熱に関しては、床下に潜って現場発泡ウレタンを隙間なく吹き付けました。これで床下の冷気が室内に入り込むことはなくなります。
壁は既存の外壁を撤去して合板を張り直し、湿式外断熱工法を施工しました。ポリスチレンフォームという断熱材を建物の外側に張って、その上から左官材で仕上げる方法です。天井は壊さずに2階の小屋裏に現場発泡ウレタンを吹き付けました。
窓に関しては、1階はすべて樹脂窓に交換しました。南面は大きな掃出し窓が並びます。冬の昼間は南面の大きな窓から日射をいれて、日が落ちたら断熱ブラインドを閉めて窓から熱が逃げないようにしてエアコンの負担を抑えます。夏の日射は軒やバルコニーで防ぎます。
工夫が必要なのは東西面の窓です。この方角からの夏の日射は角度が低いので軒や庇では日よけがしづらいのです。そこで西面は窓面積を極力減らし、東面の窓には日よけのシェードを付けました。
2階に関しては既存の窓をそのまま残し、内窓を付加して断熱性能を高めました。既存の窓と内窓の間にアルミ製のブラインドを取り付け、夏の日よけをします。
2 階の窓のブラインドを閉じたところ
これらの工夫により、断熱性能の指標であるUA 値は0・51となりました。一般的な新築住宅よりよい数値です。
間取りはLDKをワンルームにまとめました。
和室も障子を開くと玄関や廊下とつながります。和室の一部は土間に変えて玄関とつなぎました。
和室の障子を開くと玄関や廊下と一体となる。写真の左手が玄関、右手の廊下を奥に進むとサニタリールーム
障子と玄関と廊下を仕切る建具を閉めたところ
インテリアに関しては、2階は既存のままに留めました。
1階はKさんの好みを反映し、LDKはナラ材のフローリングと板張りの天井で仕上げました。
キッチンまわりの建具にはラワンを用いて、落ち着いたトーンでまとめました。
キッチンの背面収納はラワン材の木建で隠すことができる
壁は珪藻土クロスで仕上げ、ダイニングなど一部を薄塗りの漆喰で仕上げました。
(だん編集部/取材・大菅力、撮影・武藤奈緒美)
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