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2021/03/16 07:53 - No.1026


第1回 断熱改修のこれから


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竹内昌義が語る「これからの断熱」
竹内 昌義

2021/03/16 07:53 - No.1026

 
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■ なぜ断熱改修が必要か? 

断熱改修とは文字どおり、建物の断熱性を向上させて夏の暑さや冬の寒さを改善、冷暖房効果をアップすることで省エネにもつながる、というものです。省エネへの意識の高まり、住宅内の激しい温度差から起こるヒートショックの危険性などが知られるようになったことから、ようやく人々が断熱の大切さに気づきはじめ、断熱改修は昨今ニーズが高まっています。

古い建物ほど断熱性は低い。無断熱の家すら存在します。多くの人が、それを当たり前のこととして過ごしているのが現状です。

そこで断熱改修。冬の寒さ、夏の暑さが軽減し、さらには光熱費が安くなる。改修コストはそれなりにかかるものの、実感できる効果は高く個々の暮らしにはいいこと尽くしといえます。

暮らしの質の向上はとても大切なことです。ただ、その点だけでいえば「寒い・暑いのは我慢できるし、うちには必要ないかな」と思われる人もいるでしょう。いま断熱改修が求められるのには、もっと別の理由があるのです。

それは、今世界的に目指している脱炭素社会への転換です。

脱炭素社会と断熱改修。どこでリンクするのか分かりにくいかもしれませんので、少し解説していこうと思います。

脱炭素社会の実現のため、たとえば日本では「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標を掲げています。二酸化炭素を出さない。そんなことが可能なのか? どんな不自由な生活になるのだろう?と思ってしまうことでしょう。しかし、これは、現在我々が使っているエネルギー(電気)すべてを二酸化炭素を排出しない「再生可能エネルギー」にすることで、今までと同じ生活を続けていけることがわかっています。

再生可能エネルギーへの転換は世界的な流れですが、この10年間、太陽光発電の普及で10%ほど増加はしているものの日本での再エネ比率は18%ととても低く、これまでの伸び率(単純計算で年1%)を続けていても、とても2050年には間に合いません。


そこで同時に、使うエネルギーを減らすことが求められます。つまり、いままでと同じ電源構成では、2050年にゼロにすることは不可能だから、使う量(CO2排出量)を減らしましょう、というわけです。

日本のエネルギーのうち、実に1/3を建築(家庭、商店、ビル、施設など)が使っています。運輸、工業、建築など各分野での省エネが求められるわけですが、直近の試算では建築でのエネルギー使用は40%削減すべきとされています。やっぱり我慢の生活を強いられるのか……。しかもこれは新築だけに限らず、既存住宅にも求められるものですから、暑くて寒い古い家で電気を使わない生活では命に関わる問題です。

ここで、ようやく断熱につながります。家の断熱性能を上げることがエネルギー削減に大きな効果をもたらします。電気を使うことを止めるのではなく、電気をたくさん使わなくても快適な建物をつくること。

未来のため、いまこそ断熱改修が必要なのは、そうした理由があるのです。


■ ゼロエネルギー住宅は可能か?

私たちの日々の生活に電気は欠かせません。照明もエアコンも、調理や洗濯といった家事にも電気を使っていて、これを半分近くも削減するなんてできるはずがないと思うのは当然です。

しかし実際には、エネルギー使用量をゼロにする住宅は実現可能です。その実例を見てみましょう。


おもに山形産の杉と唐松を使って建てられた山形エコハウス。


壁200ミリ、屋根300ミリの模型。山形エコハウスの断熱材はこれよりも各100ミリ厚い。

ご存知のとおりゼロエネルギーとは、エネルギーを一切使わないのではなく、使用量と供給量で「プラスマイナスゼロ」を目指すというものです。二酸化炭素の排出量と吸収量が同じであれば、トータルとしての二酸化炭素量は変化していないという考え方(カーボンニュートラル)になります。

たとえばバイオマス燃料。木材は燃やすと二酸化炭素を放出しますが、これは木が生長する過程で吸収・固定した二酸化炭素を放っているだけで、新たな二酸化炭素が発生しているわけではありません。プラスマイナスゼロといえます。

カーボンニュートラルな家を目指して建てた山形エコハウスは、天井に40センチ、壁に30センチの断熱材を入れ、窓にはトリプルガラスの木製サッシを採用することでエネルギー消費量を削減しつつ、太陽光発電で電力を自給、ペレットボイラーで暖房と給湯をまかなっています。その建物燃費データが以下です。


山形エコハウスの「建もの燃費」は、総一次エネルギー消費が単位床面積あたりで57.47kWh/㎡/年。太陽光発電の見込み量は年間5,175kWhで、単位面積あたりで見ると、消費量よりも発電量の方が18.47Wh/㎡/年上回る結果となっています。つまり、使うエネルギーはゼロ。プラスエネルギーハウスといえるでしょう。また家が暖かいため、ペレットボイラーでの暖房で使用する自然エネルギーの消費量も少なく済んでいます。

いま、作り手の様々な努力から新築住宅の断熱性能はとても上がっていて、コストアップも含めて消費者にも受け入れられるようになりました。エネルギー削減目標を前に、この先どうやって家づくりをしてくのか?と危機感をもち模索したさまざまな試みのなかで、高断熱・高気密住宅は、新たなビジネスモデルとなりつつあります。

断熱性をどこまで上げるか? 上げること自体は簡単でいくらでも上げられますが、そのぶんコストも跳ね上がります。また山形エコハウスでは実験的に、極端なほどの試みを取り入れていますが、実際には、HEAT20のG2グレード(※)に4kwの太陽光発電の組み合わせで、エネルギーゼロが実現できると考えています。



※HEAT20のG2グレードとは
HEAT20(一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)が提案する、従来の住宅の省エネルギー基準とは異なる断熱グレードで、「G1」「G2」のふたつのグレードがある。G2グレードは、冬の室内温度環境が体感温度で15℃(地域により13℃)を下回らない断熱性能を備え、現行の省エネ基準よりも30~50%暖房負荷を削減できる外皮性能をもつ建物となる。




■ 断熱改修~カーボンニュートラルへの道筋

新築住宅の断熱性能が向上するいっぽうで、多くの既存の建物は十分な断熱性を有していません。住宅では断熱化はいまだに義務化されておらず、無断熱レベルの家が80%にもなるといいます。戸建てだけではなくマンション、営業施設や公共施設といった建物も、やはり断熱性能は低く、冬暖まらない(または夏暑い)環境を、冷暖房設備などの性能アップで補っている有り様で、窓からエネルギーがダダ漏れしています。これではエネルギー削減どころではありません。

新築では比較的簡単な高断熱化ですが、既存の建物への断熱改修は、どのような手法で、どの程度行うか、費用対効果はどの程度か?など、適切な改修を実践するには難しい点もあります。半面、断熱の効果をダイレクトに体感できるのが既存建物への断熱改修です。

そこに暮らす人、使う人のためにも、脱炭素社会を目指すうえでも、断熱性能を上げるべきは既存建物ということができるでしょう。断熱改修を行うことでみんなが温かい家に暮らすことができ、脱炭素社会化にも貢献できるのです。

再生エネルギーへの転換、住宅のカーボンニュートラル先進国であるヨーロッパでも、この流れが始まったのは、ここ20年のこと。すでにある先例の真似できるところは大いに取り入れながら取り組んでいくことで、30年後の目標達成は夢ではありません。

現在、自分でできる断熱改修のワークショップを開催するほか、学校やホテル丸ごと1棟の断熱改修を行いながら、改修前後のデータなどを収集・検討しています。これらの詳細は次回から紹介してきたいと思います。






(取材・文: 田村桂子)



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竹内 昌義
株式会社 エネルギーまちづくり社

株式会社 エネルギーまちづくり社 代表取締役。東北芸術工科大学 教授。株式会社 みかんぐみ 共同代表。一般社団法人 パッシブハウス・ジャパン 理事。1962年生まれ、神奈川県出身。東京工業大学工学部建築学科卒、同大学院建築学専攻修士修了。東北芸術工科大学教授。ワークステーション一級建築士事務所を経て、1995年長野放送会館設計競技当選を機にみかんぐみ共同設立。2001年より東北芸術工科大学にて教鞭をとる。代表作に山形エコハウス、HOUSE-M他。

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