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2021/05/28 08:45 - No.1052


第1回 全館空調のメリットと注意点(前編)


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全館空調で快適・省エネな暖冷房を
前 真之

2021/05/28 08:45 - No.1052

 


アフターコロナの今日では、在宅勤務が増え、家で過ごす時間が長くなっている中、住まいの快適性や省エネに関心が高まっています。

建物の断熱性能は、窓の高断熱化を中心に、近年急激に向上してきました。そして、さらなる健康・快適な住環境を実現するため、現在注目されているのが全館空調です。日本ではあまりポピュラーでなかった全館空調ですが、最近になって様々な方式が続々登場しています。

そこで、本連載では5テーマにわけて、全館空調の良さを上手に生かした、健康・快適で省エネな暖冷房計画を考えてみます。

連載1回目となる今回は、「全館空調のメリットと注意点」の前編をお送りします。


1、 全館空調のメリットと注意点(本稿) 

2、 全館空調の方式と特徴

3、 空気と熱の基礎知識

4、 全館空調と断熱で暖房を快適に

5、 全館空調と日射遮蔽で冷房を快適に




◆壁掛エアコンの短所を解決する全館空調

日本で冷房機器といえば、なんといっても「壁掛クーラー」です。最近では暖房もできるようになった「壁掛エアコン」で、冷房と暖房の両方とも賄う場合が増えてきました。

壁掛エアコンは1台あたりの単価は安く、設置や交換も容易です。間仕切られた個室への設置も問題なし。部屋ごとにリモコンで発停や温度・風量の調整が容易で、空調能力も十分(というか過大)です。

このように、壁掛エアコンには多くの長所があるのですが、欠点も少なくありません。

室内の吹出口から直接大風量で吹き出すため、身体に温風・冷風が直接あたります。また、部屋の中での温度や気流のムラが大きく、快適な暖冷房を行うのが得意ではありません。さらに、各部屋に壁掛エアコンを設置すると、ほとんどの運転時間が低負荷となり、エネルギー効率も低下して電気代もかさんでしまいます。

最近の高断熱住宅では、こうした壁掛エアコンの欠点が顕著になってきました。これらを解決するため、より快適で省エネな暖冷房のために、全館空調が注目されています。



[壁掛けエアコンの特徴]



[壁掛エアコンの欠点を全館空調は解決できる]


壁掛エアコンは簡便で最も一般的な方式ですが、多くの問題点があります。

全館空調は適切に設計すれば、壁掛エアコンよりも快適で省エネな暖冷房が可能ですが、断熱・日射遮蔽といった建物性能の確保が欠かせません。


快適な温熱環境を実現するための4条件をチェック

「全館空調は快適」とよくいわれますが、そもそも快適な温熱環境とはなんでしょうか。以下の通り、快適な温熱環境の4条件を整理しておきました。

快適条件①「身体の熱バランス確保」は最も重要な条件で、人間が体温を保ち健康に暮らす上で必須です。人間は食物のエネルギーの8~9割が代謝熱となり、身体の中から湧き出てきます。この代謝熱に対して放熱が多すぎると「寒い」、逆に放熱が間に合わないと「暑い」と感じるのです。代謝熱≒放熱となるよう上手に放熱できれば「快適」の第一条件がクリアできます。この代謝熱と放熱の「熱バランス」を確保するためには、空気温度ではなく、後述する「作用温度」が重要になるのです。


快適条件②は、「局所の不快がない」こと。特に、足元が寒い・頭が暑いといった「上下温度差」や、床が冷たい「床表面温度」、温風や冷風が身体にあたる「気流感」がないことが必要ですが、壁掛エアコンでは解決が困難です。


快適条件③「暖房時の乾燥感を抑える」ことは、乾燥感への非常に不満が多い日本では特に重要です。乾燥を感じると加湿器につい頼りたくなりますが、むやみな加湿は結露の原因となり好ましくありません。乾燥感の主因は「高温の空気が顔にあたる」ことなので、温風を顔にあてない、そもそも高温の空気がないようにすることが望ましいのです。


快適条件④は、「家中を適温に」は、ヒートショック解決のために重要です。家の中の温度差は血圧の急変動を招き非常に危険ですので、家中をいつでもどこでも暖かく保つことが大事です。



快適な温熱環境のためには、様々な条件をクリアしなければなりません。ここでは特に重要な4条件をピックアップしました。

条件①②は世界標準の快適性基準であるISO 7730の内容に基づいています。さらに日本の家を想定して、特に不満の多い乾燥感の予防を条件③、そしてヒートショック解決のために条件④を追加しています。

対流と放射2つの放熱を整える「作用温度」の確保が最重要

先の快適条件4つのうち、最も重要な条件①「身体の熱バランス確保」について、もう一度見ておきましょう。

代謝熱と同じだけ身体表面から周辺に放熱できることが絶対条件ですが、人体から周辺への放熱ルートは、下図に示すようにいくつもあります。このうち、室内でのんびり過ごす安静時には、周辺空気への「対流」と、周りの床・壁・窓・天井への「放射」が、それぞれ放熱量の半分ずつを占めています。

つまり、快適な温度を考える時、空気温度は身体から放熱の対流分、つまり放熱全体の半分しか決定していないことになります。残り半分の放射放熱を考えるためには、床・壁・窓・天井の表面温度である「放射温度」も考慮する必要があるのです。

空気温度と放射温度の両方を平均した「作用温度」を適温にすることが、快適な空調の第一条件です。

放射温度は遠赤外線カメラ(サーモカメラ)で可視化することが可能です。後ほど、壁掛エアコンと全館空調の住宅の放射温度の差を、サーモカメラで分析します。

安静時に身体の熱バランスが確保できる作用温度は、冬に24±2℃、夏に26±1℃程度です。

空気温度ではなく、対流と放射の両方を説明できる作用温度を確保することは、快適な空調計画で最も重要なポイントなので、よく覚えておきましょう。




空気と放射の2大放熱ルートをカバーする「作用温度」を理解しよう]


温度というと空気温度ばかりが気になりますが、人体の放熱の半分は床・壁・窓・天井の表面温度である「放射温度」で決まることを忘れないようにしましょう。

空気温度(対流放熱)と放射温度(放射放熱)の両方をカバーした作用温度で考えれば、人体放熱のほとんどをカバーすることができます。




次回、「全館空調のメリットと注意点」の後編です。以下について更に進めてまいります。

■ 壁掛エアコンは不快のデパート

■ 全館空調は⼈に温⾵を当てずに放射温度を⾼めるから暖房が快適

■ 全館空調は⼈に冷⾵を当てずに放射温度を下げるから冷房が快適

■ 全館空調は電気代も意外と安い

■ 全館空調の良さを活かすには注意点⾊々 丁寧な設計が不可⽋


▼当連載の他の回はこちら▼
全館空調で快適・省エネな暖冷房を

 
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前 真之さん
東京大学

東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 准教授。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2004年建築研究所などを経て29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

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