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2021/07/19 11:19 - No.1053


第2回 全館空調のメリットと注意点(後編)


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全館空調で快適・省エネな暖冷房を
前 真之

2021/07/19 11:19 - No.1053

 


アフターコロナの今日では、在宅勤務が増え、家で過ごす時間が長くなっている中、住まいの快適性や省エネに関心が高まっています。

建物の断熱性能は、窓の高断熱化を中心に、近年急激に向上してきました。そして、さらなる健康・快適な住環境を実現するため、現在注目されているのが全館空調です。日本ではあまりポピュラーでなかった全館空調ですが、最近になって様々な方式が続々登場しています。

そこで、本連載では5回にわけて、全館空調の良さを上手に生かした、健康・快適で省エネな暖冷房計画を考えてみます。

今回は、テーマ「全館空調のメリットと注意点」の後編をお送りします。


◎連載テーマ一覧 

1、 全館空調のメリットと注意点(本稿) 

2、 全館空調の方式と特徴

3、 空気と熱の基礎知識

4、 全館空調と断熱で暖房を快適に

5、 全館空調と日射遮蔽で冷房を快適に



(「全館空調のメリットと注意点」の前編はこちら


◆壁掛エアコンは不快のデパート

4つの快適条件、さらに作用温度を理解したところで、壁掛エアコンによる暖房を分析してみましょう。




壁掛エアコンは、快適な暖房を実現するには元々不利な方式ですが、低断熱・低気密住宅とセットになると、まさに「不快のデパート」というべき悲惨な室内環境になってしまいます。

壁掛エアコンは普段はOFFで、在室する時だけONにする「間欠運転」がほとんどです。暖房が切られている間に、床や壁・天井の放射温度は冷え切っているので、作用温度を確保するには空気温度をむやみに上げるしかありません。

この高温の空気が高いところにある壁掛エアコンから大風量で吹き出すのですから、たまったものではありません。熱風が顔を直撃して、強烈な乾燥感を目や鼻・喉に感じさせてしまいます。さらに悪いことに、高温の空気は軽いので足元に届かず、床温度は低いままで、上下温度差がむやみに大きくなってしまうのです。

ここに低断熱・低気密の建物が組み合わさると、もう目も当てられない状況となります。暖房費がかさむばかりで、家中が暖まりません。実際に、省エネ基準レベル(断熱等級4)の家でリビングをエアコン暖房しても、家中のほとんどは寒いまま。



[壁掛エアコンでは健康・快適な温熱環境は得られない]


上記は、省エネ基準(断熱等級4)レベルの住宅で、リビングの壁掛エアコンで暖房している様子です。

暖房しているリビングさえ快適とはいえず、隣のキッチンの足元や和室・廊下は寒いまま。脱衣室や浴室はヒートショックが心配になるほど低温です。


家の中が細かく間仕切られた閉鎖的なプランでは、家の中の温度差はますます大きくなり、家中の多くがほとんどの時間、不快・不健康な寒さに取り残されてしまうのです(下図上段)。


[低性能住宅×壁掛エアコンから高性能住宅×全館空調で進化]


閉鎖プランの低断熱・低気密住宅は、まともな暖房はできません。プランもなるべく開放的にするとともに、高断熱・高気密を確保し、その上で全館空調を24時間動かすことが、健康・快適で省エネな暖房を実現するほぼ唯一の方法なのです。 


全館空調は人に温風を当てず放射温度を高めるから暖房が快適

そこで全館空調の出番です。

以下は、床下に温風を送り込むことで暖房する全館空調を設置した住宅の室内サーモ画像です。高温空気が吹き出すのは床下空間なので、乾燥感や気流感を床上の住民に感じされることはありません。

床下の熱は熱伝導で床表に伝わるとともに、窓際のスリットから温風として吹き出し、床上空間全体を穏やかに温めます。床下全体に温風が回り家中に熱が届けられることで、キッチンやトイレ・水回りも含め、家中がすみずみまで暖かく保たれます。

そして、全館空調は常時24時間運転するのが基本です。常に暖房し続けることで、床や壁・天井の室内側表面温度である「放射温度」まで適温になります。先にお話したように、放射温度は人体からの放熱の半分を決定しています。放射温度を高めることで、不快の原因となる高温空気なしに、作用温度を高め身体の熱バランスをとることができます。24時間暖房しつづけることによる放射温度の高さこそ、全館空調の心地よさの秘密なのです。


[全館24時間空調なら床・壁・天井の放射温度も適温に]

特に、この写真にあるような床下に温風を送り込む方式の全館空調では、身体に温風を当てることなく家じゅうムラなく暖房でき、しかも床表面温度を高めることができます。

24時間暖房し続けることで、壁や天井の放射温度も適温になるため、空気温度を高くする必要がなく、快適かつ乾燥感が少ない快適な温熱環境を作れるのです。

全館空調は人に冷風を当てず放射温度を下げるから冷房が快適

暖房の次は冷房です。「夏の冷房が苦手」という人は非常に多いのですが、その理由を考えてみましょう。

日本の家は、屋根・天井の断熱が弱く、日射熱で屋根が加熱されると、その熱で天井まで高温になります。また、窓の日射遮蔽が不十分だと、太陽熱が室内にそのまま侵入してきてしまいます。熱い天井は放射により在室者の頭を加熱し、侵入した日射熱は空気温度を急上昇させてしまいます。

さらに「冷房はできるだけガマン」する人が多いため、暑さでどうにもならなくなって壁掛エアコンで冷房をONにする時には、室内は空気温度だけでなく、天井・壁などの放射温度も極めて高温になっています。

空気温度も放射温度も高い室内をなんとか冷やそうと、壁掛エアコンは慌てて極低温の空気を目一杯吹き出します。ところが低温の空気は重たいので下に急降下し、身体の肌を強烈に冷やしてから足元に溜まります。一方で放射温度はなかなか下がらないので、遠赤外線で身体を加熱し続けます。


この「冷風が身体に当たって肌寒いのに涼しくない」という状況が、冷房の気持ち悪さの原因なのです。


快適な冷房を行うには、壁掛エアコンを反面教師とすればよいのです。

「冷たい空気を身体にあてず」に、「放射温度を下げる」ことがポイントです。全館空調は、冷気を穏やかに家中に回すので、身体に与える気流感が和らぎます。


さらに24時間運転し続けることで、室内の天井や壁の温度が低く保たれるのです。



冷房について、湿度の重要性をことさらに強調する議論があります。確かに運動中の高代謝時には、発汗蒸散が放熱のメインなので湿度は重要です。しかし、室内で安静にしている低代謝時には、湿度が人体放熱に与える影響は大きくありません。安静時の放熱は、空気への「対流」と床・壁・天井への「放射」が半分ずつ。湿度調整よりも放射温度のコントロールの方が重要なことは明らかです。

快適冷房のコツは「冷たい空気を身体にあてず」に、「放射温度を下げる」こと。屋根・天井の断熱や窓の日射遮蔽が不十分な中で、壁掛エアコンで冷房すると、「冷たい冷気が身体にあたる」のに「放射温度は高い」ままなので、ひどく不快に感じます。快適冷房のコツは、冷気を身体にあてずに家中にゆったり回し、24時間運転で放射温度を低く保つことです。

全館空調なら室内も屋外もスッキリ収まります。


壁掛エアコンは簡便なシステムですが、各部屋に1セットずつ設置していくと、それなりにスペースを取ります。


各部屋に屋内機とコンセント・冷媒配管、さらに換気の給気口まで必要で、あまり見た目が良いモノではありません。さらに外には、セットの数だけ屋外機をずらりと並べる必要があります。


隣家への騒音問題も考えると、屋外機の置き場所確保はなかなか厄介です。

全館空調は適切に設計すれば、各部屋には空調の吹出口だけを設置すればよく、家が換気と一体化したシステムであれば給気口を別につける必要がありません。エアコンの屋内機がないと、部屋の中がとてもスッキリします。


屋外機もまとめられるので、設置場所に困ることもなくなります。



壁掛エアコンは、セットの数だけ屋内機・屋外機を置く必要があり、室内も屋外もゴチャゴチャしがちです。

全館空調なら各部屋には吹出口だけなので、上手にレイアウトすれば室内はとてもスッキリ。屋外機も1~2台にまとまりコンパクトです(上記屋外機のシステムは暖冷房と給湯を1台で賄うタイプ)。


全館空調は電気代も意外と安い

全館空調は、家中を24時間ずっと暖房・冷房するので、電気代が高そう……。しごくごもっともな指摘です。

たしかに、壁掛エアコンを在室時だけ運転する間欠運転に比べると、常時運転する全館空調では、暖房・冷房で処理する「熱負荷」は大きくなりがちです。

しかし、壁掛エアコンは各部屋にかなり大きな容量の機種を設置しているため、ONにした瞬間は高負荷で動きますが、短時間で部屋の熱負荷を処理し切ってしまいます。その後のほとんどは、わずかな熱負荷だけ処理する極端な「低負荷」で運転するため、エネルギー効率が大きく低下し、電気をムダに消費してしまいます。スポーツカーが渋滞にはまると、極端に燃費が悪くなるのと同じです。

壁掛エアコンも全館空調も、暖房・冷房の熱源は、空気の熱をくみ上げる「ヒートポンプ」です。ヒートポンプは一般的に、能力半分くらいの「中負荷」で安定して動かした時、一番効率が高くなります。全館空調は家全体の熱負荷を1台でまとめて24時間処理するので、中負荷で安定して動き続けることができます。そのため、処理する熱負荷が大きくても、ヒートポンプの効率が高くなるので、消費する電気の量は意外と少なくて済み、電気代も意外と安上がりなのです。



[家中の熱負荷をまとめて高効率に処理するのが全館空調]

壁掛エアコンはONにした瞬間だけ高負荷運転ですが、部屋の熱負荷を処理し切った後ほとんどの時間は低負荷のため、ヒートポンプの効率が低い領域ばかりで動いています。

全館空調は家中の負荷を24時間まとめて処理するため、ヒートポンプが中負荷で安定して運転でき、効率が高くなります。熱負荷は大きくても消費電力量を小さくすることができるのです。

全館空調の良さを活かすには注意点色々。丁寧な設計が不可欠

このように全館空調は、冬も夏も、いつでもどこでも健康・快適な室内環境を、少ない消費電力量で実現することが可能です。

夢のような話ですが、ウソではありません。ただし、全館空調の持つ本来の快適性・省エネ性を活かすためには、建物性能を含めた住宅全体の丁寧な設計が欠かせません。

また、最近になって極めてたくさんの種類の全館空調が提案されていますが、どれもが一長一短であり、「これが最高」というものを筆者は知りません。全館空調は大きなポテンシャルをもっていますが、「このタイプさえ入れておけば万事OK」などというお手軽なものでは絶対にありません。


次回は、様々な全館空調を取り上げて、その特徴を整理します。


 
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前 真之さん
東京大学

東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 准教授。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2004年建築研究所などを経て29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

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