アフターコロナの今日では、在宅勤務が増え、家で過ごす時間が長くなっている中、住まいの快適性や省エネに関心が高まっています。
建物の断熱性能は、窓の高断熱化を中心に、近年急激に向上してきました。そして、さらなる健康・快適な住環境を実現するため、現在注目されているのが全館空調です。日本ではあまりポピュラーでなかった全館空調ですが、最近になって様々な方式が続々登場しています。
そこで、本連載では5テーマにわけて、全館空調の良さを上手に生かした、健康・快適で省エネな暖冷房計画を考えてみます。
今回は、テーマ「全館空調のメリットと注意点」の後編をお送りします。
◎連載テーマ一覧
1、 全館空調のメリットと注意点(本稿)
2、 全館空調の方式と特徴
3、 空気と熱の基礎知識
4、 全館空調と断熱で暖房を快適に
5、 全館空調と日射遮蔽で冷房を快適に
(「全館空調のメリットと注意点」の前編はこちら)
◆壁掛エアコンは不快のデパート
4つの快適条件、さらに作用温度を理解したところで、壁掛エアコンによる暖房を分析してみましょう。
壁掛エアコンは、快適な暖房を実現するには元々不利な方式ですが、低断熱・低気密住宅とセットになると、まさに「不快のデパート」というべき悲惨な室内環境になってしまいます。
壁掛エアコンは普段はOFFで、在室する時だけONにする「間欠運転」がほとんどです。暖房が切られている間に、床や壁・天井の放射温度は冷え切っているので、作用温度を確保するには空気温度をむやみに上げるしかありません。
この高温の空気が高いところにある壁掛エアコンから大風量で吹き出すのですから、たまったものではありません。熱風が顔を直撃して、強烈な乾燥感を目や鼻・喉に感じさせてしまいます。さらに悪いことに、高温の空気は軽いので足元に届かず、床温度は低いままで、上下温度差がむやみに大きくなってしまうのです。
ここに低断熱・低気密の建物が組み合わさると、もう目も当てられない状況となります。暖房費がかさむばかりで、家中が暖まりません。実際に、省エネ基準レベル(断熱等級4)の家でリビングをエアコン暖房しても、家中のほとんどは寒いまま。
[壁掛エアコンでは健康・快適な温熱環境は得られない]
上記は、省エネ基準(断熱等級4)レベルの住宅で、リビングの壁掛エアコンで暖房している様子です。
暖房しているリビングさえ快適とはいえず、隣のキッチンの足元や和室・廊下は寒いまま。脱衣室や浴室はヒートショックが心配になるほど低温です。
家の中が細かく間仕切られた閉鎖的なプランでは、家の中の温度差はますます大きくなり、家中の多くがほとんどの時間、不快・不健康な寒さに取り残されてしまうのです(下図上段)。
[低性能住宅×壁掛エアコンから高性能住宅×全館空調で進化]
閉鎖プランの低断熱・低気密住宅は、まともな暖房はできません。プランもなるべく開放的にするとともに、高断熱・高気密を確保し、その上で全館空調を24時間動かすことが、健康・快適で省エネな暖房を実現するほぼ唯一の方法なのです。
◆全館空調は人に温風を当てず放射温度を高めるから暖房が快適
そこで全館空調の出番です。
以下は、床下に温風を送り込むことで暖房する全館空調を設置した住宅の室内サーモ画像です。高温空気が吹き出すのは床下空間なので、乾燥感や気流感を床上の住民に感じされることはありません。
床下の熱は熱伝導で床表に伝わるとともに、窓際のスリットから温風として吹き出し、床上空間全体を穏やかに温めます。床下全体に温風が回り家中に熱が届けられることで、キッチンやトイレ・水回りも含め、家中がすみずみまで暖かく保たれます。
そして、全館空調は常時24時間運転するのが基本です。常に暖房し続けることで、床や壁・天井の室内側表面温度である「放射温度」まで適温になります。先にお話したように、放射温度は人体からの放熱の半分を決定しています。放射温度を高めることで、不快の原因となる高温空気なしに、作用温度を高め身体の熱バランスをとることができます。24時間暖房しつづけることによる放射温度の高さこそ、全館空調の心地よさの秘密なのです。
[全館24時間空調なら床・壁・天井の放射温度も適温に]
特に、この写真にあるような床下に温風を送り込む方式の全館空調では、身体に温風を当てることなく家じゅうムラなく暖房でき、しかも床表面温度を高めることができます。
24時間暖房し続けることで、壁や天井の放射温度も適温になるため、空気温度を高くする必要がなく、快適かつ乾燥感が少ない快適な温熱環境を作れるのです。
◆全館空調は人に冷風を当てず放射温度を下げるから冷房が快適
暖房の次は冷房です。「夏の冷房が苦手」という人は非常に多いのですが、その理由を考えてみましょう。
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