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2021/09/14 08:04 - No.1056


第3回 全館空調の方式と特徴


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全館空調で快適・省エネな暖冷房を
前 真之

2021/09/14 08:04 - No.1056

 


アフターコロナの今日では、在宅勤務が増え、家で過ごす時間が長くなっている中、住まいの快適性や省エネに関心が高まっています。

建物の断熱性能は、窓の高断熱化を中心に、近年急激に向上してきました。そして、さらなる健康・快適な住環境を実現するため、現在注目されているのが全館空調です。日本ではあまりポピュラーでなかった全館空調ですが、最近になって様々な方式が続々登場しています。

そこで、本連載では5回にわけて、全館空調の良さを上手に生かした、健康・快適で省エネな暖冷房計画を考えてみます。


これまで、前々回前回と2回にわたり、全館空調のメリットと注意点について整理してきました。

最近では全館空調は様々な方式があります。住宅向けの全館空調の方式は、熱源に何を用いるか、どのように冷風・温風を送風するかにより、大きく以下のように分類することが可能です。


そこで、今回は、熱源は通常の「壁掛エアコン(壁掛AC)」か専用の「ダクト式エアコン(ダクトAC)」、送風方法は空気を通す太い管であるダクトの有無による「ダクトあり」「ダクトレス」、それぞれ2方式に整理してみました。これより、それぞれ順にご紹介していきます。


全館空調の主な方式(当記事の目次)

1. 壁掛エアコン(AC)を用いる方式

  -a 壁掛AC_ダクトレス_床上設置

  -b 壁掛AC_ダクトレス_ロフト・床下設置

  -c 壁掛AC_ダクトあり_空調室設置

  -d 壁掛AC_ダクトレス_階間設置 ※こちらは2-b内でご紹介します

2. ダクト式エアコン(AC)を用いる方式

  -a ダクトAC_ダクトあり

  -b ダクトAC_ダクトレス_階間設置




全館空調の主な方式(壁掛エアコンを用いる方式

1-a. 壁掛AC_ダクトレス_床上設置

普通のエアコン(本文では「壁掛エアコン」)は、非常に一般で安価であり、適正な負荷がかかった状態でのエネルギー効率は高いなど、利点が多い方式です。

現在に至るまで、この壁掛エアコンは各部屋に1台ずつこの壁掛設置する「各部屋個別」設置が一般的ですが、高性能化が進む現在の住宅においては、快適性やエネルギー効率の面から必ずしも最適とはいえなくなっているのは、前回までにお話しした通りです。壁掛エアコンの長所を活かしつつ、家全体を空調する方式を、図1に示しました。



[図1 壁掛エアコン(AC)を用いた空調方式]


壁掛エアコンを床上設置のまま、LDKや階段ホール・廊下などに設置し、特に送風ファンやダクトなどは追加せず、エアコンからの送風のみで暖冷房を行う方式が、「壁掛AC_ダクトレス_床上設置」です。

通常の各部屋個別設置と設置方法は全く同じですが、上手に壁掛エアコンを配置すれば冷温風が家中に循環し、各階を1台、または家中を1台で暖冷房することが可能です(図2)。



[図2 壁掛AC_ダクトレス_床上設置の例(冷房時)]


床上の居室空間内で空調計画が完結するため、床下や天井裏の空間を使う必要がなく、床断熱・天井断熱の物件でも可能です。設置方式もエアコンメーカーの仕様を守っているため、保証の心配もありません。

ただし、壁掛エアコンは遠くまで空気を送る能力に乏しいため、温度ムラは大きくなる傾向があり、部屋ごとでの温度制御も困難です。建物全体で空気が循環するルートを作ることが肝心で、吹抜けがあるオープンな空間が基本となります。部屋の間仕切りを少なくし、ドアの上下に空気を通すガラリや隙間を設けるなど、様々な工夫も必要です。何より、室内の温度ムラが起きないよう、建物の断熱・気密や日射遮蔽の徹底が不可欠なのです。

壁掛エアコン1台で家中を空調することは一見すると非常に簡単に見えますが、きちんと暖冷房を機能させるハードルは最も高いと言えます。


1-b. 壁掛AC_ダクトレス_ロフト・床下設置

冷たい冷風は重い、暖かい温風は軽いため、冷房は上から下へ、暖房は下から上へ、が基本となります。

壁掛エアコンをそれぞれ1台ずつ、屋根裏のロフトなどに設置して上から冷房(図3)、床下に設置して下から暖房する(図4・5)のが、この方式です。



[図3 壁掛AC_ダクトレス_ロフト設置の例(冷房時)]



[図4 壁掛AC_ダクトレス_床下設置の例(暖房時)]



[図5 壁掛AC_ダクトレス_床下設置の例(暖房時)]


比較的簡便な方式ですが、前述の床上設置に比べれば、空間全体に冷温風が循環しやすいと言えます。特に、床下空間にエアコンの暖気を吹き込む「床下エアコン」は、直接人に温風を当てないために乾燥感も少なく、足元から暖かい床暖房の効用も得られるなど快適性も高いため、急速に普及している方式です。

一方で、床下や天井裏の空間が必要なため基礎断熱・屋根断熱が必須となり、基本的に吹抜けがあり間仕切りの少ない、オープンなプランが必要です。特に、床下空間はエアコンの送風能力だけで暖気が隅々まで広がるよう、基礎梁などの障害物を減らし、温風の出口となる床スリットをバランスよく配置するなど、構造も含めた慎重な計画が必要となります。

温度ムラを完全になくすことは難しく、部屋ごとの制御も困難です。また、床下エアコンはメーカーの仕様に即していない設置となるため、保証などの問題が起きる場合があり得ます。


1-c. 壁掛AC_ダクトあり_空調室設置

壁掛エアコンを小さな空調室に設置し、その冷温風をファンとダクトにより建物全体に送風する方式です(図6)。壁掛エアコンの弱点である送風能力の低さを、別に設置するファンとダクトで補い、家中の隅々まで送風できるため、温度ムラは少なく、間仕切りの多い閉鎖的なプランにも対応できます(図7)。



[図6 壁掛AC_ダクトあり_空調室設置]



[図7 壁掛AC_ダクトあり_空調室設置の例(暖房時)]


一方で、壁掛エアコンを設置する空調室が必要でダクトスペースも必要となるため、床面積が小さい物件では導入が難しくなります。また、部屋間の圧力差が大きくなるのを防ぐため、ドアの上に空気を融通する「パスダクト」が必要な場合もあります。


全館空調の主な方式(ダクト式エアコンを用いる方式)

2-a. ダクトAC_ダクトあり

これまでは壁掛エアコンを用いた、全館空調を説明してきました。低価格な普及機でも能力的には十分で、低コストや簡便さから広く普及してきています。

ただし、見た目が簡便な方式ほど、建物性能や配置計画を慎重に行う必要があることは忘れないでください。

また、壁掛エアコンは一般的に「1日6時間運転して10年程度」の寿命設計とされており、24時間運転では短期間で故障する可能性があります。メーカーの設置仕様に従っていない場合は、保証を受けられない場合もあり得ます。


一方のダクト式エアコンは強力なファンで送風するため、ダクトを通して遠くまで冷温風を送り込むことが得意です。アメリカではごく一般的な方式ですが、日本ではバブル期に流行ったのみで、設置コストや暖冷房費の高さのためか、これまで普及することはありませんでした。

最近になって、従来より簡便な方式の登場により、設置コストが低廉化し、住宅の断熱・日射遮蔽性能が向上したことで暖冷房費もリーズナブルになったため、最近になって普及しつつある方式です。建物内に縦にもダクトを通し1台のダクト式エアコンで家中を空調する方式のほか、階ごとに1台ずつ設置してダクトを階別に通す方式もあります(図8)。ダクト式では、冷温風をダクトを通して各部屋の吹出口に届けます(図9・10)。



[図8 ダクトAC_ダクトあり]



[図9 ダクトAC_ダクトありの例(冷房時)]



[図10 ダクトAC_ダクトあり(床下空間経由で暖房時)]


ダクト式は間仕切りの多い閉鎖的プランにも対応可能で、温度ムラが少なく吹出口の風量を調整すれば各部屋の室温制御も可能です。長時間運転を前提に設計されているため、耐久性も高くなっています。空調設備が建物に一体化するため、室内がスッキリするのも長所です。

一方で、ダクト式エアコン本体・ダクト・吹出口を設置するスペースが必要になります。特に、ダクトを梁など構造体の隙間に通すためには慎重な設計が求められます。全館空調本来の快適性を得るためには、適切な形状の吹出口を上手にレイアウトすることも重要です。


2-b. ダクトレス_階間設置

ダクトは冷温風の確実な送風に役立ちますが、特に1階天井と2階床の間の「階間」は梁が多く通っているため、ダクトをつぶさずに通すのが難しい場合が少なくありません。そのため、階間空間を利用した全館空調方式が登場しています(図11)。



[図11 階間設置のダクトレス]


壁掛エアコン(図12)、またはダクト式エアコン(図13)の冷温風をダクトを通さず、階間空間内に開放し、各部屋の吹出口のファンで引き込むのが一般的です(図14)。最近登場した方式ですが、空調に必要なスペースが階間で完結するので、省スペースなのが大きなメリットです。天井断熱や床断熱でも問題ありません。熱源は、壁掛エアコン(図12)でもダクト式エアコンの両方が使えます。



[図12 壁掛AC_複数室ダクトレス_階間設置]



[図13 ダクトAC_複数室ダクトレス_階間設置]



[図14 階間方式でよく用いられるブースターファン]


一方で、梁や配線が通る階間空間に冷温風が行きわたるためには、階間空間を適切に設計する必要があります。階間空間と外気の境界の断熱気密や防湿にも注意しましょう。



今回は、近年新しく登場して普及しつつある、全館空調の主な方式を整理してみました。

「壁掛エアコン」と「ダクト式エアコン」、「ダクトレス」と「ダクトあり」で整理すると、それぞれの長所と注意点も見えてきます。


次回は、全館空調を適切に計画するために不可欠な「熱と空気の基本知識」を取り上げます。


 
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前 真之さん
東京大学

東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 准教授。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2004年建築研究所などを経て29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

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