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2021/10/05 08:18 - No.1079


第36回 フィンランドの夏の定番!都会と田舎の二拠点生活(デュアルライフ)


北欧住宅事情(フィンランドから)
大村 裕子

2021/10/05 08:18 - No.1079

 

フィンランド、ヘルシンキ在住の大村裕子です。フィンランドの建築について住宅を中心に、建築士の視点でレポートしていきます。

前回は、フィンランドの首都・ヘルシンキで5月に開催された「オープンハウスヘルシンキ」という、普段一般公開されない場所を見学できたり、その場所の専門家(設計者など)の話を聞くことができるイベントで、保育園の庭を見学してきた時のお話をしました。

今回は、フィンランドでは当たり前ですが、普段の生活拠点とサマーコテージでの二拠点生活(デュアルライフ)についてご紹介していきます。

※前回の記事はこちら(前回のテーマ:フィンランドのランドスケープ設計「保育園の庭」)


◆全国に50万戸あるサマーコテージ


フィンランドでは普段住んでいる家とは別に、家を持つ人が珍しくありません。例えば、普段はヘルシンキ近郊のマンションや戸建住宅に住んでいて、週末や長期休暇には田舎にあるコテージで過ごすといういわゆる「二拠点生活」です。別荘といっても、家のタイプは様々。本当に電気や水道がないシンプルな山小屋のようなタイプから、普通の住宅より豪華なものまでかなり幅があります。通常フィンランドではこのような別荘を「サマーコテージ」と呼びます。


フィンランドに来て驚いたのは、二拠点生活がとても普通だということです。

「フィンランドにはサマーコテージが約50万7200軒あります。所有者またはその家族として、サマーコテージと何らかのつながりがある人が約82万人います。 」

出典:FACTS ABOUT FINLAND フィンランドってどんな国?

※興味のある方は「PDF」をクリックして、「Japanese」を選択するとPDFがダウンロードできます


フィンランドの人口は約552万人ですので、人口の約1割の数のサマーコテージがあるということになります。オーナー関係者は約82万人ですが、友人や親戚のサマーコテージに行くケースもよくあるので、実際にはもっと多くの人がサマーコテージを利用しています。

私は2012年まで日本に住んでいたのですが、その頃は別荘を持つのは "裕福な人たち" という印象がありました。私は輸入住宅会社で働いていて、札幌、東京、千葉などで注文住宅を設計していました。時々、北海道や軽井沢の別荘を設計する機会がありました。お客様は、普段は首都圏に住んでいて、夏休みや冬休みの長期休暇を別荘で過ごし、引退後にはそちらに移住したいという方が多かったです。別荘は豪華な仕様でした。


フィンランド定番の夏休みの過ごし方

サマーコテージでのんびりと過ごすのは、夏休みの定番です。自分でサマーコテージを持っていなくても、親戚の誰かが所有していて順番に利用することが可能です。

サマーコテージはその名前の通り、主に夏に利用されます。フィンランドの通常の住宅では、冷房はなく暖房はセントラルヒーティングが主流です。サマーコテージでは冷房もセントラルヒーティングもないことが多いので、冬はあまり使われません。サマーコテージはたいてい自然豊かな森の中、湖のそばにあるため、冬は雪でそこまで行くのが大変です。水道が凍ることも考えなければいけません。ただ暖炉はあることが多いので、中には冬にも利用する人もいます。


サマーコテージのウッドデッキでランチ


サウナのあとに湖に飛び込むための桟橋


大人の夏休みは4週間

フィンランドでは7月に4週間夏休みをとるのが一般的です。フィンランドに来た当初は、これで世の中がどう廻っていくのか不思議で仕方ありませんでした。確かに7月はすべてのことがゆっくりしか進みません。

友人に夏休みの計画を聞くと、たいてい最低1-2週間はサマーコテージで過ごすと答えます。中には4週間ずっとサマーコテージで過ごすという人もいます。業種によっては会社を完全にクローズすることはできないので、その場合は交代で6月や8月に夏休みをとります。


レンタルコテージも人気

私自身はサマーコテージを持っていないので、友人3人でレンタルをすることにしました。今年の8月にサヴォンリンナにある、サマーコテージで1週間過ごしました。

これまでフィンランド人の友人や知り合いに誘われ、10件くらいの様々なタイプのサマーコテージに泊まったことがあります。それに比べて、このサマーコテージは電気、水道、トイレがすべて完備されています。さらに暖房もセントラルヒーティング、暖炉、エアコンの3種類があって、冬も快適に過ごすことができます。

ホームページには日本語もあります。以前は日本からのお客さんが多かったとのことです。

https://lomamokkila.fi/ja/


寝室。私たちが泊まったコテージは寝室が2つ



キッチンとダイニング。料理器具、電子レンジ、コーヒーメーカーなども完備。幅600㎜の大型食器洗い機まで


実は昨年の12月にも滞在して、今回は2回目です。2回目だったのでだいぶ慣れていて、自分たちのサマーコテージに帰ってきたような気分です。ただ冬と夏では外の景色が全く違いました。同じ場所とは信じられません。



冬は一面雪景色


暖炉のあるリビング。奥はキッチンとダイニング


サウナは必須。水道、電気がないサマーコテージも

サマーコテージはインフラ、つまり電気、水道、暖房、トイレがサマーコテージ内にあるかどうかで、かなり過ごし方が変わってきます。

例えば、水道がない場合は、湖の水を汲みます。電気がない場合は、ソーラーパネルやランプを使います。トイレがない場合は、共同のバイオトイレが別棟にあります。

面白いのは、電気や水道はなくてもサウナは必ずあるということ。サウナはフィンランド語で、一般住宅にもほぼ必ずあるというほど、フィンランドでは当然のものですが、特にコテージには欠かせないのです。サウナに入るためにサマーコテージがある、といっても過言ではありません。



サウナの内部。階段になっているベンチは上にいくほど温度が高めに



と新聞を入れて着火。機材上部の石が温まり、それに水をかけるのがフィンランド式


サウナは電気ではなくて、薪を燃やします。実は初めてやった時は、サウナを充分温めることができませんでした。2,3時間かけても60度くらいのぬるいサウナしか作れなかったのです。試行錯誤して3日目くらいから、やっと80度の快適なサウナを作ることができました。

サウナに薪を用意して、新聞紙とマッチで火をつけます。空気の通り道を作り、上手くいくと白樺のいい香りがしてきます。この一連のサウナの作業そのものが癒されます。灰を片付けたり、薪を小屋から運ぶ必要もありますが、それも楽しいです。

パソコン、携帯といった、便利な日常生活から、強制的に離れることができてリラックスできるのです。キャンプをイメージするとわかりやすいかもしれません。不便さに癒されるという感じです。



木でできたカゴに入った薪



サマーコテージの横にある薪小屋


サマーコテージでのリモートワークを初体験

フィンランドで働く友人から、「コロナが始まってから、ほぼ毎日リモートワークをしている。」という話をよく聞きます。それならば別に都会の自宅で仕事をする必要がないとのことで、平日もコテージで過ごして仕事をする人もいます。

また別の友人は、「夏はサマーコテージで仕事をすることもある。小さな島なので電気はないけれど、白夜なのでソーラーパネルが活躍するよ。CADは結構電気を使うけれど大丈夫。」と言っていました。

私はオフィスで仕事をすることが多く、家からのリモートワークはあまりしていません。サマーコテージからのリモートワークに興味があったので、今回初めて挑戦してみました。

インターネットも問題なく繋がりますし、自然を見ながら仕事ができること、また仕事の前後にはリフレッシュできるので、とてもよかったです。一緒に行った友人は、オンラインでプレゼンテーションミーティングをしていました。

私はArchicadというCADを利用しています。フィンランドではRevitとArchicadが同じくらい広く使われています。最近手掛けたプロジェクトは、フィンランドの2つの会社が設計を担当しました。チームワークの機能があり、高速のインターネットさえあればどこでも複数の人が同時に作業ができます。2社合わせて10人ほどのメンバーがいましたが、実際みんなどこで作業しているのかは知りませんでした。サマーコテージ、または外国にいたかも知れません。


サマーコテージの人気急上昇

フィンランドでは夏休みは近場のヨーロッパで1週間、コテージで2週間、最後の1週間は自宅でゆっくりというように過ごす人もいます。ただこの2年はコロナの影響で海外旅行がしにくいため、夏休みはフィンランド国内、特にサマーコテージで過ごす人が多かったようです。

またコロナ渦で、リモートワークのできるサマーコテージの人気が急上昇しているそうです。今回、インターネットさえあれば、サマーコテージでも問題なく仕事ができる時代になってきたのことを体感しました。今後はさらにサマーコテージの需要が多くなっていくのではないかと思います。



仕事のあとにコテージの前の湖のほとりで、バーベキュー



 
大村 裕子
Leppänen Architects

フィンランド、ヘルシンキ在住。一級建築士。 1996年北海道大学工学部建築工学科卒業。スウェーデンハウス株式会社で16年設計に携わる。主に北海道、千葉、東京にて202邸の注文住宅、別荘、店舗等を設計。 その後スウェーデン、フィンランドにて設計事務所にて住宅を設計。フィンランドの北欧建築視察専門の旅行会社を経て、現在はフィンランドの設計事務所Leppänen Architectsに在籍。

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