性能向上リフォームのなかでも、耐震改修のニーズは高い。近年は大きな地震が短期間で何度も起こり、都市部の直下型地震も囁かれている。耐震改修のベテランであるリョウ建築事務所の小林良太氏の事例をもとに、耐震診断から改修に至る各段階のポイントをお伝えする。
■一般診断法による判定
小林氏はこれまで多くの耐震改修を行ってきた。今回紹介するA邸もその1つ。A氏が新潟市の補助事業を利用して、市に耐震診断を依頼したところ、新潟市木造住宅耐震診断士である小林氏が担当することになったのがきっかけだ。
耐震診断には「一般診断法」と「精密診断法」があり、まずは一般診断法に基づき診断するのが通例だ。一般診断法は、耐震補強の必要性を判定するために実施するものだ。目視を中心とした非破壊による調査で分かる範囲の情報に基づいて、耐震改修の要否を判断する。
この際、参考になるのが新築時の図面だ。築30年を超える建物だと紛失している場合が多いが、まずは建主に問い合わせてみる。ただし、古い木造住宅の場合、現場変更などにより図面通りに施工されていない事例も少なくない。図面の情報を鵜呑みにするのは危険である。あくまでも図面は参考情報であり、耐力壁などは目視などで存在が確認できたものだけを評価の対象とする。
■現地調査のポイント
現地調査で確認する主なポイントは、①耐力壁の有無と配置バランス、②接合金物が使用されているかどうか、③木材の腐朽とシロアリ被害、④基礎仕様と劣化状況、の4点。
これらを確認するために外部や室内のほか、床下や天井裏に潜り、現状を確認していく。調査に際しては経験のある大工と同行するとよい。この時代の建物だと筋かいの端部は釘留めになっているとか、こういう補助金物が使われているなど、調査に際して仕様の予測ができる。A邸は昭和52年竣工であり、土壁と筋かいが併用されているなど、伝統工法と在来工法が混ざっていることが想像できた。建った時期から想定して、基礎は無筋の可能性もあった。
調査に際しては写真をたくさん撮ることが大事だ。まずは耐力壁として評価される要素をまんべんなく拾い出す。壁の仕様は図面の情報をもとにして、室内からと天井裏からの目視、打突などにより確認する。
■写真はアングルを変えて多めに
調査内容の記録も重要だ。ポイントは複数のアングルで写真を撮影すること。室内は4面の壁と床、天井が写るように何枚か撮影する。耐力壁は天井裏からも配置が確認できるので、分かりやすいアングルで撮影する。天井裏に上がることで、梁まで土壁や下地のラスボードを伸ばさずに途中で切れている状態などが発見できる。これらはコストダウンのためだが、柱や梁、土台をつないで一体化した壁でないと耐力壁としての効果が発揮されない。調査上のポイントの1つである。
外壁も窯業系サイディングなど、仕様によっては耐力壁とみなされるため、外装の記録も重要だ。各面を上から下までしっかり移し、小壁部分などの状況も分かるように写真を撮っておく。
玄関の壁。土壁の上漆喰塗り。耐力壁となる
壁にはクラックがある。過去の地震の影響と思われる
柱脚部は込み栓打ち
上がり框に過去のシロアリ被害の痕跡が覗く
居室の壁は土壁。耐力壁となる
廊下の小壁の状態も記録する
建具と絡む小壁の状態も漏らさず記録する
台所は耐力壁としての仕様のほか、不燃板の有無など改善要素も記録する。
写真はコンロ周辺に不燃板がない
トイレや浴室などの壁の仕様ももれなく記録する
外装は耐力壁として評価されるかどうかと劣化具合を調査。
事例は金属板なので耐力壁としては評価できず錆による劣化も顕著
事例は窯業系サイディングを張っている面もある。
窯業系サイディングは耐力壁として評価される。ただし塗膜が劣化し、補修が必要な状態
次回は耐力壁以外の要素に関する調査について紹介する。
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