リフォーム産業新聞の編集長、金子裕介です。当連載では、リフォーム業界の最新トレンドの動向をご紹介します。
第20回は「空き家を『お金』に変える6つのアイデア」というテーマでお送りします。
年々増え続ける「空き家」。国の調査によれば、なんとその数は848万戸(平成30年住宅・土地統計調査)。全国にある住宅の約13%を占めるようです。
空き家はそのまま放置していると、倒壊したり、火災が発生したりする危険性があります。また、所有者にとっては毎年固定資産税を支払わなければならないため、経済的なデメリットもあります。
空き家は今後も急増するようです。野村総合研究所が発表したリポートによれば、2033年には空き家が2000万戸近くになるという驚きの予測さえあります。
負の遺産ともいえる空き家ですが、むしろお金を生み出す宝の山と捉える企業も出てきています。空き家問題は、使える空き家は活用する。使えない空き家は迅速に解体・除去する。このような次の一手をうつことが大事だと私は考えます。今回は空き家ビジネスに取り組む企業をリポートします。
◆空き家問題をお金に変える方法とは?
さまざまな事業者の取り組みを取材してきました。そのような企業の取り組みを整理した結果、空き家をお金に変える方法を以下のようにまとめてみました。それぞれのテーマに沿って、企業の事例を紹介していきます。
①リノベーションのモデルルームにする
②買取再販ビジネスにする
③賃貸物件にする(住宅にも店舗にも)
④管理で稼ぐ
⑤構造材や建材を利活用する
⑥解体する
①リノベーションのモデルルームにする
工務店に多いのが、戸建ての空き家を買い取って、リノベーションし、それをモデルルームとして活用するというパターンです。例えば、岐阜県の工務店、望みグループホールディングスは、築64年の戸建て空き家を約1000万円で購入し、1200万円のリノベーションを施しました。
近所では「お化け屋敷」と言われていた、ボロボロの物件がありました。それを蘇らせたことで評判になり、来場者もだんだんと増えていきました。その結果、1年間で150組も来場する人気モデルハウスに。「リノベーション」の価値が伝わったことで、平均単価1500万円の受注が次々と舞い込みました。
同社では新築がメインで、改修事業は2018年時点で6000万円ほど。それが2億円に伸びました。空き家は「お金を生み出す家」になったわけです。
単価の小さいリフォーム工事はやりたくないという工務店さんは多いと思います。物件購入費や改装のコストはかかりますが、リノベーションの受注のチャンスが広がるこの戦略、試してみてはいかがでしょうか。
②買取再販ビジネスにする
空き家を買って、リフォームできれいに仕立て直して販売する。こんな事業を手掛ける会社も増えています。いわゆる「買取再販」とよばれるビジネスです。
例えば、静岡県のSweets Inevstmentという会社があります。「空き家買取専科」というブランドで、地元静岡の空き家で困っている人を集め、物件を買い取ってあげます。その後リフォームして売りに出す。
驚くべきことに、月間100〜150件ほどの売却相談が寄せられるそうです。とにかく誰かに相談したいというニーズの高まりを感じます。年間40棟ほどの販売に成功し、年商は5〜6億円にもなります。
築年数が古い戸建ての空き家は一般的な不動産仲介会社に相談しても、本気で売却活動しくれる人に出くわす確率は低いです。ボロボロのため買い手がつきにくいだけでなく、売却価格も低いため売れたとしても仲介手数料が少ないためです。リフォームされていない物件の仲介は難しいので、同社のように買い取り、しっかりリノベして、販売することがビジネスのポイントです。
③賃貸物件にする
空き家の戸建てを賃貸物件に再生するというケースも出てきています。神奈川県のルーヴィスという会社は築50~60年の戸建て空き家を賃貸物件へとリノベーションしています。
空き家を持つオーナーから、物件を買い取るのではなくて、賃料を払って借り上げ、ルーヴィスが改修後に転貸するというモデルです。入居者からの家賃から、オーナーへ支払う家賃を差し引いた金額が、ルーヴィスの利益となる仕組みです。
オーナーへの支払いは貸し出す家賃の10%程度とのこと。一見少ないが、オーナーは空き家をルーヴィスに貸し出すだけで、毎月一定のお金が入ってくるようになる。賃料ゼロだった空き家が、毎月お金を生み出す家になります。
このような転貸(サブリース型賃貸)でなくとも、空き家の賃貸化は実現可能です。コストはかかるが、自社で戸建て空き家を購入し、賃貸物件にして入居者を募集して、毎月家賃を得ていくというモデルを手掛ける会社もあります。武蔵コーポレーションという会社では、出来上がった戸建て賃貸を、投資家に売却を。このように売却益で稼ぐことも可能です。
居住用の賃貸ではなく、店舗に変えるケースもあります。例えば、福岡県のリビングデザインは築49年の空き家を350万円で購入し、美容室にリノベ。地元で美容室を経営したい人に借りてもらっています。
④空き家管理業を始める
空き家を売りはしないが、定期的にチェックして欲しいというニーズに応えようと、空き家の管理ビジネスを手掛ける会社もある。埼玉の日高都市ガスという会社では、月5000円で戸建ての外回りのチェック、月1万円で室内に入り、通水のチェックも行うといったサービスを始めています。
まだまだ契約件数は数件であるが、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に繋がる取り組みとして最近始めました。
同社では不動産仲介業も手掛けており、売却相談に繋がることも期待しています。
⑤構造材や建材を利活用する
ちょっと変わった取り組みなのだが、空き家を解体する際に使える構造材や建材を利活用する取り組みも出てきました。全国古民家再生協会という団体では、「古民家移築『結』YUI」というプロジェクトを推進。古民家を解体した際に、柱や梁などの構造材、建具などの建材など再利用できるものは、新築やリフォームの際に使用します。
例えば、新潟の築130年の戸建てを解体した際に柱と梁を保存し、協会の会員の工務店が新築を建てる際に、その柱と梁を使ったという事例があります。
構造材を新築に活用した
家まるごとは存続できなかったとしても、部材だけは活用し、次世代に残すという考え方がユニークです。
⑥解体する
空き家はすべてが利活用できるものではありません。周囲に危険が及ぶような空き家は速やかな解体や除去が望まれることも多いです。ただし、空き家の所有者が悩むのは、どの業者に依頼すれば良いのか分からないと言うことです。ここに目を付けて、解体業者のマッチングサイトを立ち上げたのがクラッソーネという会社です。
解体業者を比較相談できるサイト
全国の解体工事業を生業とする企業が約1600社登録しているサイトで、年間3万件近くの相談が寄せられているようです。既に1万件以上の工事がこのサイトを通じて行われているという。空き家の解体についての相談窓口がほとんどない中、受け皿の1つになっているようです。
◆空き家は金になる
今後ますます増えていくとされる空き家。それを負の遺産とみず、お金を生み出す貴重な遺産とみる発想の転換が、社会問題を解決し、会社の利益も生み出すことになるでしょう。
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