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2021/03/25 10:55 - No.1029


第4回 足かけ4年で機械式駐車場の撤去・平面化を実現したマンション


知らないと損する!マンション管理組合の現場レポート
村上 智史

2021/03/25 10:55 - No.1029

 


クルマ離れで苦境に立たされるマンション管理組合が増えている

マンションの住戸数に対する駐車場設置率は、首都圏では2007年をピークにその後下落に転じ、2016年以降は4割台まで落ち込み、低下傾向に歯止めがかからない状況です。特に東京都区部では、2007年の56%をピークに、2016年以降は2割台にまで低下しています。(下図参照)


(2017年9月 不動産経済研究所調べ)

その背景には、若者のクルマ離れや高齢化の進行に伴いクルマを持つ人が減っていることや、公共交通機関の充実やカーシェアリングの普及等で「クルマを持たないライフスタイル」が広まったことがあるようです。

こうした影響を受け、昨今では駐車場の空き区画の増加で苦境に立つ既存マンションが増えています。マンション内の駐車場については、管理費とは別に利用者から使用料金を徴収し、管理組合の重要な収益源として維持管理や修繕の費用に充てているからです。

また、マンションの場合、敷地面積の制約から立体式の駐車設備を導入するのが一般的です。
そのため、空き区画の増加で単に収入が減少するだけでなく、設備の保守点検費用や修繕費用は負担し続けなくてはならないという問題ものしかかってきます。


機械駐車場の撤去・平面化に踏み切った築21年目のマンション

都内にある筆者の顧問先のマンションでは、今年の1月に機械式駐車設備を撤去し、平面化する工事を実施しました。

このマンションには、平置きの駐車場のほかにも機械式駐車場が9台分(3段ピット式・3区画)ありましたが、そのうち7台が長らく空き区画となっていました。
そのため、駐車場収入が満車時と比べると年間2百万円強も減少している状況にあり、管理組合の財政をかなり圧迫していました。

このままでは管理費の値上げも余儀なくされることも懸念されましたが、筆者が管理コストの見直しのコンサルティングに着手し、割高な管理委託費について管理会社との減額交渉に成功したため、当面の財政問題についてはリスクを解消できました。

ただ、遊休化してしまった駐車設備については、今後も保守点検費のほか、各種部品や電気制御装置、パレットの入替えといった多額の修繕費の負担を強いられます。

そのため、この管理組合では、執行機関である理事会を中心にこの空き区画対策について様々な検討を行なっていました。


駐車場の空き区画対策①:収益改善策の検討

最初に検討したのが、収益改善を目的とした外部利用者への貸し出しです。

そのため、利用者の募集や営業の代行業務のほかに、一定の収入の保証もしてくれる複数のサブリース業者から提案を受けました。

ただ、家賃保証を求めると、本来期待する収入に対して半分程度しか実入りがないことがわかりました。また、マンションの住人以外に駐車場を貸し出す場合には「収益事業」と判定されるため、法人化していない管理組合でも「みなし法人課税」の対象になってしまいます。

ざっくり言うと、その賃貸収益に対して3割程度の税金を納めなくてはなりません。さらに、その申告を税理士に委託すれば、その代行費用もかかります。

以上の考察を踏まえて試算した結果、外部貸しでは収益の改善効果がさほど見込めないこと、また住人以外の利用者が敷地内に立ち入ることによるセキュリティ上の不安も新たに生じることから、外部貸しの検討を見送ることになりました。


駐車場の空き区画対策②:コスト削減策の検討

その後は収益改善策に代わって、駐車設備の維持管理コストを軽減できるプランの検討が本格化していきました。

具体的には、9台分のパレットをすべて撤去し、ピット内に梁と柱を組み立て、その上に鋼製板を敷き込み、新たに3台の平面区画にするプランを検討することになりました。

ちなみに、このプランの代替案として、パレット等の設備を撤去した跡のスペースを砕石で埋め戻し、アスファルト舗装で表面を仕上げる方法もあります。
ただ、埋め戻し工法の場合、鋼製板敷き込み工法よりも経済的負担が小さいというメリットがある一方、ピット自体が砕石の重さに耐え切れるかどうかという問題があります。

また、マンション敷地の地質の状況(地盤の硬さ、水位)によっては、埋戻し後に地盤沈下や地下水の逆流を引き起こす事例も一部見られ、施工業者もこれらの事象への保証はできかねるとの説明があったため、埋め戻しプランの採用は見送ることになりました。


駐車設備の撤去・平面化の経済効果はいかに?

鋼製床の敷き込みプランについて複数の施工業者から相見積もりを取得したところ、少なくとも税込みで4百万円程度の費用がかかることがわかりました。
これをもとに、このまま現状を維持した場合の今後の経済負担の見通しとの比較検証を行いました。

【現状維持の場合】

下記の通り今後20年間で合計1,600万円が見込まれます。

  ■今後20年間で見込まれる修繕費(見込):1,400万円

  ■定期保守点検費用(20年間)     :  200万円


【鋼製床の敷き込みプランによる平面化の場合】

駐車設備をすべて撤去することによって、これらに付帯する保守点検費や修繕費用の負担から解放されることになります。
そのため、現状維持の場合と比べて今後20年間で差し引き1,200万円(=1,600万円ー400万円)の経費削減ができる計算となります。

ただ、新たに敷設した設備の維持・修繕費はどう見込んでおけばよいのでしょうか?

定期保守点検が不要になるのは間違いありません。修繕費については、施工業者の工事仕様書によれば、梁・柱等の主要部材の耐用年数は約50年、床材については約25年と記載されています。

また、床材の表面処理については耐食性に優れた「溶融亜鉛メッキ」でコーティングされているため、雨や紫外線の影響を受けにくい仕上げになっています。

入出庫や土砂などによって床材の表面が傷つき、そこが錆びたり劣化するなどの可能性はもちろんあるため、その場合再塗装の費用などがかかりますが、少なくとも20年以内に百万円単位の負担を見込む必要性は少ないとの説明を施工業者から受けました。

なお、このマンションでは、築20年を経過して設備の経年劣化が進行しており、制御装置や操作盤等の交換について保守会社から提案を受けており、その見積額が130万円でした。

平面化すればこの補修費の負担を回避できるため、管理組合が決断するには良いタイミングだったと言えるでしょう。


駐車場設備の撤去・平面化は、総会の「特別決議」が必要

駐車場設備の撤去は「共用部分の大きな変更」に該当するため、総会の特別決議事項となります。
その場合、全区分所有者の4分の3以上の賛成が必要です。

そのため、このマンションでは、今後の駐車場の利用ニーズについて事前に確認を行うととともに、これまでの検討経過から平面化の具体的なプランならびに経済効果の試算に関する説明を盛り込んだうえでご意見を伺うアンケートを実施しました。

その結果、ほとんどの区分所有者が撤去平面化プランに賛成してくれることを確認できたため、総会に上程し、目立った反対もなく無事承認が得られ、実現に至ったのです。

このマンションでは、駐車場の空き区画問題について2018年から検討を開始していたため、今回の平面化の実施までに足掛け4年もかかった計算になります。

管理組合で物事を進めていくには、年齢もライフスタイルも異なる区分所有者間のコンセンサスを得ることが何より重要ですが、それが最も難しい。

理事会の検討経過や代替案の試算結果などをタイムリーに開示しながら、一般の区分所有者とも情報や知識を共有することが肝心です。

<従前の状況>

 


<平面化実施後の状況>

 

 


平面化を検討する場合には附置義務条例の確認を!

なお、自治体によっては、駐車場の附置義務条例が制定されている場合があるので設備の撤去平面化を検討するに際には留意が必要です。

附置義務条例は、過去に都心部等で駐車場不足が問題となったことで制定されたもので、大規模な商業施設やマンションを新設する際には、収容できる駐車台数を一定数設けることを義務付けています。

マンションが建つエリアによっては、この条例に該当する可能性があり、機械式駐車場の撤去によって収容できる駐車台数を減らすと、条例に違反するおそれがあります。その結果、場合によっては罰金等の行政罰が課されるリスクがあります。

ただ、車離れに伴う駐車場ニーズの低減傾向も見られることから、国土交通省でも附置義務条例の見直しが図られ、特例として平面化を認める動きが各自治体で見られます。

東京都では、附置義務で定められた駐車台数未満に緩和するための認定基準やそのための申請手続きの要件等を定めていますので、ご確認ください。



HP:https://yonaoshi-honpo.co.jp/index.html

 
村上 智史
株式会社 マンション管理見直し本舗

株式会社 マンション管理見直し本舗 代表取締役社長 村上智史 東京都マンション管理士会所属 マンション管理士・中小企業診断士・宅地建物取引主任者 1964年京都府出身。早稲田大学商学部を卒業後、1987年4月三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事したほか、投資顧問会社出向等を経て2013年3月退職し、同年4月より現職。

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