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2022/02/08 07:30 - No.1141


第20回 外皮編「気密性能について(3)」


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省エネのキホン
堤 太郎

2022/02/08 07:30 - No.1141

 
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引き続き「外皮について」というテーマで「省エネのキホン」的考察を進めます。今回も「住宅の気密性能」に関する内容です。

■漏気(隙間風)がなぜ起こるのか

少し期間も空きましたので、まずはおさらいから。

前回は、「2021年現在に改めて気密性能の必要性をアナウンスするとしたら」ということで、過去の省エネ基準でも挙げられていた4項目に「省エネのキホン」的2項目を加えた6項目をお伝えしましたのが下記内容です。

1.「漏気(隙間風)を防止して暖冷房負荷の低減、省エネ性、快適性の向上」

2.「断熱材の性能低下の防止、省エネ性、快適性の向上」

3.「繊維系断熱材採用の場合の室内側気密化による防湿効果で壁内結露を防止、耐久性の向上」

4.「計画換気が成立するための出入り口の明瞭化と必要風量を確保し、健康性、省エネ性を向上」

5.「現場測定による数値化で1棟毎の施工精度を証明」

6.「購入者が依頼業者を選ぶ際の住宅性能における重要な指標」

今回は、この中から1.についてお話します。

まず気密性が低いとなぜ「漏気(隙間風)」が起こるのか。

それは空気の特性と大いに関係があります。

私たちが生きる世界では、熱は常に(平衡状態になるまで)「高い方から低い方に流れる」というのは普遍的な原理とまで言っていいかと思われます(ミクロの世界になると統計学的な側面が出てきますが)。

それと同様レベルで、「周囲よりも暖められた空気は上に、冷やされた空気は下に移動する」というのも、これまた抗いようもなく起こる日常的な現象です。


今回、空気の膨張などのメカニズムまでは踏み込みませんが、この現象自体は特に考えなくても感覚的に納得いただけると思います。

ちなみに、この「暖められた空気は上に、冷やされた空気は下に移動する」という現象を捻じ曲げようと(例えば、暖気を下に、冷気を上に移動させようと)すると、逆に比べてかなり大きなエネルギー量を投入する必要があります。
具体的には、強力なファンや単位時間当たりの空気運搬量が多いダクトファンなどの使用が必要になります。
それでも、空調した空気が室内に拡散した瞬間、先ほどの「当たり前に起こる現象」により、思ったような効果を得るのはなかなか難しいです。
これを現実的にしていくのが高い断熱・気密性なのですが、空調に絡む内容は追ってまた取り上げることとします。

話を空気の移動に戻します。

ここで「温度差」に着目しますと、1年の中で特に期間の長い暖房が必要な期間を中心に、室内で起こっているのはどんな現象でしょうか?

室内外に温度差がある時点で、室内全体には「浮力」が働きます。
熱気球が空に昇っていくイメージを想像いただければわかりやすいかと思います。気球の中の空気を温めるほど、上昇しようとする力が強くなりますね。
ところが家はたやすく浮き上がるような重量ではありませんし、基礎を通じてしっかりと地盤に固定されています(そもそも浮き上がったりしたら用途に反します)。

となると、室内外に温度差がある場合に固定された家の中がどうなるか。

「暖められた空気が上昇したい力=浮力」をかなえようとする圧力が発生し、
・空間(部屋・家全体)の上部では空気が外に出ていこうとする力
・空間(部屋・家全体)の下部では出ていこうとする分、空気が入ってこようとする力
の両方として働きます。


この圧力は、温度差が大きいほど強くなります。

これに加えて、外部に風が吹いている場合は、風上と風下にも(厳密には上部の屋根にも)別の圧力が発生しますので、それはそのまま、室内に入ってこようとする力、出ていこうとする力として働きます。

ここで重要なポイントは、これらの「空気を動かそうとする圧力」は換気システムなどと関係なく、「閉じた室内に常に働いている」という点と、
その閉じた空間を構成する壁・天井・床やサッシに隙間があるほど移動する量が増えるという点です。

ここで思い出していただきたいのが、前回でもお伝えしました「木造住宅の弱点」です。


気密性が低いと、これらの隙間からどんどん空気が移動しますが、その意図しない空気の移動を「漏気」と称します。文字通り、漏れているわけですね。

漏気は、温度差が大きいほど、風速が大きいほど増えるので、

・寒い日ほど外へ逃げていく空気が増える → 暖めた空気が逃げる
 → 暖房負荷が増える → エネルギー消費量が増える
・寒い日ほど外から入る空気が増える → 冷たい隙間風として感じる
 → 室内にいても寒さを感じる → 快適性が下がる
・温度差があるほど圧力が高まる → 暖房の温度を上げるほど漏気が増える
 →暖房負荷も増え、快適性も下がるという悪循環
・風の強い日ほど漏気が増える → 室内の快適性が気候にも左右される

という状況になってしまいます。

ちなみに「隙間風」については前々回にご紹介しました、「HEAT20設計ガイドブック2021 正しい住宅断熱化の作法」の中で、「人が不快に感じない風速とは」という検証が示されており、「室温が20℃の場合は、0.2m/sであれば許容できる」ということを踏まえて、新築時の性能としてA CH9.8=0.4±0.1(C値=0.7±0.2)が適当という提案につながっています。

意図しない「漏気」をできるだけ少なくすることが、
・省エネ性の向上
・快適性の向上
につながる、ということを認識いただけましたら幸いです。
上記には換気システムの効率向上なども加わりますが、それらは以降のお話で。

以上、住宅の気密性能の必要性について、1.をお話しました。
次回は、2.の項目について、解説していきます。

(参照図書)
・「結露の完全克服マニュアル」(株式会社建築技術)
・「建築技術 2004.01 No.648」(株式会社建築技術)
・「HEAT20設計ガイドブック2021 正しい住宅断熱化の作法」(株式会社建築技術)

 
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堤 太郎
一般社団法人 みんなの住宅研究所

一般社団法人 みんなの住宅研究所 代表理事/株式会社 M's構造設計所属。一級建築士、CASBEE戸建評価員、BISほか。1966年奈良県生まれ。1990年摂南大学工学部建築学科卒業。関西商圏のビルダーに27年勤務し、主に2x4工法(枠組壁工法)の戸建住宅設計に携わる。2013年にドイツのフライブルクをはじめとした各地の研究機関・企業等をツアー視察した後、ATC輸入住宅促進センター(大阪市)主催の省エネ住宅セミナーにて、企画のアドバイスやパネルディスカッションのコーディネーターとして複数参加。2018年にM’s構造設計に参加、「構造塾」講師や「省エネ塾」の主催、個別コンサルタント等を行っている。

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