■ 「換気の悪い密閉空間」は感染リスクの高い場所
厚生労働省より2020年3月9日に公表された「新型コロナウイルス感染症対策の見解」において、感染リスクの高い場所として「換気の悪い密閉空間」が示され、
『風の流れができるように、2方向の窓を、1回、数分間程度、全開にしましょう。換気回数は毎時2回以上を確保しましょう』
という内容が推奨されました。
日本の住宅は2003年4月施行の改正建築基準法で示されている換気回数の基準0.5回/hを24時間機械換気システムによって達成できるよう設計されています。
このため、排気側の機器は法適合となる風量に設定されていますが、新型コロナウイルス感染者の呼気から発せられたウイルスを含むエアロゾル粒子は、気中で1時間から3時間以上活性を保つ可能性があるとする研究成果も報告されていることから、換気設備を通常より大きな風量で運転できるよう調整することが重要になります。
しかし、換気設備の風量をどの程度に設定するのか、また風量を大きくした時に給気側の配慮が十分なのかを判断するのは簡単ではありません。
そのため、機械換気システムの「常時ON」に加え、窓開けによる自然換気を併用して、室内の換気を行っていただくための方法について考えてみたいと思います。
なお、当ページでお伝えしている内容は、YKK APが流体解析ソフトを用いた換気シミュレーションを行った結果となります。通常、空気や風の流れは目には見えませんが、シミュレーションで気流を可視化し動画にして比較することで換気効果の違いをお伝えいたします!
■ 換気効果のシミュレーション結果は
まず、戸建て住宅のリビングとキッチンでは風上側の窓を1か所開けた場合に比べ、風上、風下の2か所の窓を同時に開けた場合は、換気量に約10倍の違いがあります。
①南面の開口を1か所開けた場合
②南面の開口を2か所開けた場合
③南面と東面の開口を1か所ずつ開けた場合
の条件で、それぞれ南から風が吹いた時に、窓から入ってくる風の流れを5分間確認しています。
①南面の開口を1か所開けた場合
窓を1か所開けた場合では、ゆっくりとしか風が入ってこないことが分かります。
②南面の開口を2か所開けた場合
片面2か所開けた場合では、勢いよく入ってきますが、取り込んだ空気が室内を循環せず片側から抜けてしまいます。
③南面と東面の開口を1か所ずつ開けた場合
2方面の窓を1か所ずつ開けた場合では、部屋の対角にある窓から窓へ風が通り抜け、窓を1か所開けた場合と比較すると、約10倍の空気を取り込めることが分かります。
このように、効率的な換気のコツは、対角の窓を開けて風の「入口」と「出口」を作ることです。
今の条件ですと、4分弱で部屋の空気を全て入れ替えることが出来ます。
次に、先ほどと同じ条件で空気のよどみを確認したものになります。部屋の中に黄色い色がついている所が空気がよどみがちな場所を表しています。
①南面の開口を1か所開けた場合(換気回数:1.7[回/時])
②南面の開口を2か所開けた場合(換気回数:7.5[回/時])
リビング側の窓だけを開けても、空気が循環しないため、部屋の隅やキッチンの空気がよどみやすいことがわかります。
③南面と東面の開口を1か所ずつ開けた場合(換気回数:16.6[回/時])
対角で開けて風の通り道を作ると、部屋全体に空気が循環し、よどみなく換気ができます。
窓が1面しかない場合では、この空気がよどむ場所に扇風機で風を送ったり、窓を開けながら換気扇を運転することでよどみの解消につながります。
▲ 窓1カ所しか開けられない部屋:
室内ドアを開けたり、扇風機を活用して空気の流れをつくることが可能に
窓開けによる換気について、開け方を工夫して空気の流れを作ることでより大きな換気量を確保できることや、空気のよどみを低減できることをご理解いただけたでしょうか?
■ 換気を効果的に行うために求められる提案とは
自然換気は外気を取り込む行為であるため、気候によっては、湿気を含んだ温まった外気を室内に取り込むことになります。5月以降の夏場にかけては気温の上昇に伴い、室内での熱中症対策を行うためにエアコンを使用する機会が増えることになります。
そうした中で換気をする場合、室内の温度上昇を招くことになり、場合によってはエアコンの設定温度を下げることで対処するケースが増えていくと考えられます。
このような中で「冷房負荷軽減」と「換気」の両立が必要とされると考えると、換気をいかに早く行うことができるかは重要な課題です。
また、今後、働き方改革やテレワーク推進等で在宅勤務が増えることが想定されています。
住宅で家族が集まったり、大人数が同じ空間で過ごす場合を想定した場合、感染予防という点では、機械換気の能力だけでは不十分な場合も起こり得るため、自然換気に配慮した間取りや窓の配置、窓種の選定などの住宅設計が求められていくことになるのではないでしょうか。
その中で、今後は住宅設計面まで含めた提案活動が求められていくのではないかと考えています。
狭小地で住宅と住宅の間が狭い所は、プライバシー重視で窓サイズが小さくなりがちですが、風を大きく取り込むためにたてすべり出し窓の設置を提案することや、夏場は住宅内の高所に熱がこもりやすいため、高所に窓を設置して1階から高所への風の流れを作ることで、換気するとともに排熱も可能になります。
そのため、窓の配置や大きさ、窓種や窓付属物などが効果的な換気や快適性向上のポイントになります。
さらに、フェンスや囲い、バルコニーなどを設置する時も、配置やデザインを工夫すれば窓から風を取り入れやすくなるなど、外装や外構も住宅設計上のポイントになっていくと考えています。
最後に、「住まいのじょうずな換気方法」のポイントを以下のとおりまとめます。
● 開ける窓は1カ所より2カ所
● 二方向の窓を開ける
● 部屋の対角線で通風するとさらに効果的
● 風向きに対して正面の窓を開けると効果的
● 正面から風が入ってこない場合は少し長めに換気
次回は、換気機能を十分に活用できる商品をご紹介したいと思います。
【記事作成:YKK AP株式会社 開発本部 価値検証センター 技術解析グループ】
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