はじめに
筆者は、現在マンション管理士として、管理組合を対象とするコンサルティングや顧問業務などを生業にしています。
もともとサラリーマンの私が独立・起業したのは、自宅マンションの管理組合で理事長を務めたことがきっかけでした。
管理組合の仕事に直接携わったことで、組合の財政基盤を適正化することがとても重要なことに気づくとともに、組合内でうまく合意形成しながら共有財産を運営していくことがいかに大変かを痛感しました。
本コラムでは、そうした私自身の自宅マンションでの経験はもちろん、プロのコンサルタントとしての様々なマンションに携わった経験から得た知見、昨今の業界の動向などをテーマに取り上げ、マンション管理に携わる皆様に役立つ情報を提供していきたいと思います。
管理組合の役員は「貧乏くじ」扱い?
管理組合の運営が難しい最大の理由は、「意識が低く、専門知識も意欲も乏しい素人が、意思決定だけでなく、業務の執行役も担わされる」からです。
管理組合の役員さんの仕事って、町内会や学校のPTAと同じく「貧乏くじ」と思われていますよね?
せっかくの休みの日を理事会や総会でつぶされて、よく分からない専門的な話や隣近所の揉め事を巡って「あーでもない」、「こーでもない」と議論しつつも、最後は結論を出さなくてはなりません。また、その労働対価としての報酬もほぼ期待できない「半強制ボランティア」というイメージが強いのではないでしょうか。
でも、考えてみてください。管理組合の運営を巡っては、かなり大きな単位のおカネが動いています。 管理費と駐車場使用料をあわせて毎月3万円払っていれば年間36万円。100戸のマンションなら年間収益は4千万円近くにものぼります。 修繕積立金にいたっては、10年も経てば「億」単位の金額にもなりえます。
このマンションを巡る多額のおカネをどうやって運用するのかを、理事長など管理組合の役員に委ねられています。 いわば管理組合とは一種の「資産管理会社」であり、その理事会はその「経営幹部」と置き換えることができます。
「素人」に半強制的ボランティアを求める理不尽な制度
たとえば、マンション管理組合を一般的な「会社」と比較した場合、明らかに異なる点があります。
それは「経営を担うのがプロフェッショナルなのか、そうでないか」です。
特に多くの上場会社では、「所有と経営が分離」していることが多く、所有しているのは株主でも、経営幹部や役員については、長期間従業員として勤め上げた「プロ」であることがもっぱらです。
一方、管理組合の場合、「所有も経営も同じ区分所有者」です。つまり専門知識のない「素人」の双肩にかかっています。そのうえ、輪番制を採用し、役員は毎年一斉交代するのが慣例になっている組合が多いのが実情です。
「多額のおカネの使い道を管理して専門的な知識が求められる」のに、「町内会やPTAと同じような半強制ボランティア方式の人選をして運営を輪番制で任せている」のが、マンション管理組合における最大の理不尽さです。
今後管理組合の運営はさらに難しくなる!?
このように、マンション管理組合の体制は構造的に脆弱な部分がありますが、今後は3つの理由からますます健全に運営していくことが難しくなっていくだろうと考えています。
① 住人と建物両方の「高齢化」
わが国の人口構成の変化と同様に、マンション居住者の平均年齢も確実に上昇しています。国交省の「平成30年度マンション総合調査」によれば、1999年(平成11年度)から2018年(平成30年度)までの約20年間で60歳代ならびに70歳代以上の割合が増加する一方、50歳代以下の割合が減少しています。住民の高齢化に伴い、管理組合の役員のなり手不足がますます深刻化することが予想されます。
一方、建物の老朽化が進むと修繕案件が増加し、その対応や資金繰りの問題に直面することになります。そんな時に管理組合内に適切に処理できる人材がいなければ、問題が先送りされて漏水事故が頻発するなど深刻なトラブルに発展することになりかねません。
② 大規模超高層マンションの供給増
分譲マンション市場においては、超高層マンション(20階以上)による供給戸数が、2002年以降は新規供給戸数全体の10 %〜20%弱の割合を占めています。
これには都心部の自治体の夜間人口を増やすために都市計画や建築基準法上の規制緩和が行われたことや、共働き世帯の増加に伴い、職住近接型のライフスタイルを実現できる利便性の高いマンションへのニーズの高まりがあると思われます。
その結果、これまで50~100世帯の規模が主流だった分譲マンション一棟に、数百から千単位の世帯数が入居することも珍しくなくなりました。
また、これまでは住居面積や価格水準も概ね似通った「金太郎飴」タイプの物件が多かったのに対して、タワーマンションの場合は広さや価格帯も大きく異なるため、職業や家族構成、ライフスタイルまでまったく違う住民が同じ屋根の下に暮らすようになりました。
そのため、多数の住人が合意形成しながら意思決定を行う組合運営が今まで以上に難しくなるだろうことは想像に難くありません。
③ 所有者不明・相続放棄事案の発生リスク
わが国における所有者不明の土地面積は、「九州」の面積を上回る410万haにのぼるとされ、2040年にはそれが720万haにまで増えると推計されています。
そもそも、所有者不明の土地が増える原因は、民法上、所有者移転等の登記移転手続きが義務でなく、名義変更手続きを行う判断は相続人に委ねられているからです。
分譲マンションでも同様に、所有者不明の問題が燻り始めていて、国交省のアンケート調査によると、所在不明者または連絡不通者が存在すると回答した割合が全体の1割を超えたそうです。
高齢人口の増加に伴い、今後大量の相続発生が予想されますが、所有者変更の手続きが行われないために管理費等の請求先がわからなくなる、といった問題が生じるでしょう。
また、被相続人の負債や、不動産を引き継ぐことに伴う固定資産税や管理費などの負担を考えた場合、割りに合わないと判断して相続自体を放棄するケースも増えるでしょう。
もしマンションで相続放棄された住戸が発生すると、滞納管理費がどんどん増え続けるため、管理組合はとても困ることになります。
そのため、管理組合としては、相続放棄された住戸の承継人を見つけるために家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることが必要になります。
その際、管理組合は、財産の管理費や相続財産管理人の報酬支払いに要する「予納金」(数十万円〜100万円)を家裁に納めなくてはなりません。
相続財産管理人が当該住戸を売却できれば、管理費・修繕積立金をようやく回収することができます。しかし、立地条件や築年数などの理由で売却できない物件だと、予納金の回収すらおぼつかない恐れもあります。
このように、管理組合の抱える課題や悩みが高度化・複雑化していく中、素人による半強制的ボランティアだけでは対応しきれなくなるのは確実です。
また、日常の運営管理を委託されている管理会社も、管理組合自体が機能不全に陥ってしまうとサポートしきれなくなるでしょう。
これを解決するには、管理組合の運営の中心にプロフェッショナルな人材を投入していくことが不可欠になっていくのだろうと思います。
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