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2021/11/09 07:30 - No.1081


第4回 全館空調|空気と熱の基礎知識


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全館空調で快適・省エネな暖冷房を
前 真之

2021/11/09 07:30 - No.1081

 


アフターコロナの今日では、在宅勤務が増え、家で過ごす時間が長くなっている中、住まいの快適性や省エネに関心が高まっています。

建物の断熱性能は、窓の高断熱化を中心に、近年急激に向上してきました。そして、さらなる健康・快適な住環境を実現するため、現在注目されているのが全館空調です。日本ではあまりポピュラーでなかった全館空調ですが、最近になって様々な方式が続々登場しています。

そこで、本連載では5回にわけて、全館空調の良さを上手に生かした、健康・快適で省エネな暖冷房計画を考えてみます。

連載第1回目2回目の記事では「全館空調のメリットと注意点」、第3回目では「全館空調の方式と特徴」についてご紹介してきました。

連載4回目となる今回は、全館空調を語るうえで押さえておきたい「空気と熱の基礎知識」をテーマにお送りします。


全館空調の主な方式(当記事の目次)

1. はじめに
2. 空気が送れる熱量を計算しよう
3. 暖冷房に必要な顕熱は2000W以下が目安
4. 換気の風量<空調の風量 を忘れずに
5. 暖かい空気は軽い、冷たい空気は重い
6. 冷房吹出温度は室温マイナス10℃が下限 |風量確保を確実に
7. 送風ファンが圧力を供給し、ダクトが圧力を消費する
8. ダクト径半分で圧力損失は32倍 ダクト径には余裕をもって!
9. 吸込の空気は速度の減衰が早く指向性がない 遠くまで届く吹出の空気が空調設計の基本




◆はじめに

前回は、様々な方式の全館空調をご紹介しました。それぞれの方式ごとに長所短所があるので、単純にどれが良いということは言えません。全館空調の方式を適切に選択し、冷房・暖房がしっかり効いて快適な室内環境を実現できるように設計するには、熱と空気に関する基本的な知識が欠かせません。

今回は、特に大事なポイントに絞って、熱と空気の基本を学びましょう。


空気が送れる熱量を計算しよう

まずは空気が運べる「熱」について見てみましょう。


(図1)空気が送れる熱量の計算式

図1に示すように、空調機が各部屋に送り込める熱量は、「風量」と「温度差」に比例します。

風量が多いほど送り込める熱量が大きくなることは直感的に分かりますね。

そして、冷房の時は室温より低温の空気、暖房の時は室温より高温の空気を送り込む必要、つまり室温と吹出空気の温度差をつける必要があります。空気の比重(≒1.2kg/)・空気の比熱(≒1000J/kg・K)とすると、「毎時の風量/h)」と「温度差(℃)」をかけて3で割ると、供給できる熱量(W ワット)が算出できます。

ワットは熱量ジュールを秒で割ったパワーの単位ですが、ピンとこないかもしれませんね。人ひとりの発熱量(顕熱)がだいたい60W、電気ヒーター1台が500W程度です。


暖冷房に必要な顕熱は2000W以下が目安

一般的な戸建住宅で、快適かつ省エネな全館空調を実現するには、冷房や暖房に必要な熱量をピーク時に家全体で2000W以下に抑えるのが目安です。市販されている一番小さな壁掛けエアコンの定格容量は2200Wですから、家全体をエアコン1台でまかなえるよう、断熱や日射遮蔽を行うことになります。部屋ごとの熱負荷も、LDKであれば1000W、個室であれば200~300Wに抑えたいものです。

同じ2000Wを家中に供給するために「風量」と「温度差」をどう設定するかは、全館空調の方式によって大きく異なります。2000/h(hはhour時間)近く「風量で稼ぐ」大風量・小温度差タイプなら、必要な温度差はたったの3℃。建物全体の空気を何度も循環させるので、温度ムラは小さくなります。一方で、大量の空気を通すためのたくさんの送風ファンが必要になり、ダクトなどに必要なスペースが大きくなります。

一方、風量は600/h程度と控えめにする代わりに、10℃程度の「温度差で稼ぐ」小風量・大温度差タイプは、ファンが小型でダクトスペースも少なくてすむメリットがあります。ただし、温度差が大きくなると後述する「空気の重さ」が温度ムラや気流感、ダクト表面における結露の原因になるので、吹出口の配置などに注意が必要です。


換気の風量<空調の風量 を忘れずに

全館空調により住宅内に循環する風量は、大風量タイプなら2000/h、少風量タイプでも600/hくらいです。家中全体にむらなく熱を供給するには、それなりの風量が必要なのです。

よく、全館空調を換気設備と同じような仕様で設計している場合が見られますが、換気装置の風量は150/h程度と、全館空調に比べてずっと少ないことに注意が必要です。換気の風量では、家中の温度をむらなく整えることは極めて困難です。

ちなみに、本稿で扱う熱量は、空気温度の上げ下げに必要な「顕熱」に限っています。空調で扱う熱の中には、湿度の上げ下げに伴う「潜熱」もあるのですが、今回は扱いません。潜熱のことを殊更に重視する事例も見られますが、筆者は、住宅の空調設計において潜熱はさして重要でないと考えています。その理由は、後の冷房の回で説明しましょう。


暖かい空気は軽い、冷たい空気は重い


(図2)温度ごとの空気の密度の変化
空気は温度が上がると密度が低下し軽く、温度が下がると密度が高くなり重くなります


(図3)低温の重たい空気は下に落ちて、高温の軽い空気は上に溜まる
強冷房でエアコンが低温の空気を吹き出すと、その重い空気は下に落ちて人に強い寒さを感じさせます。
また高温の空気は軽いので2階やロフトにたまり、冷房をつけてもなかなか解消されません

風量が足りない場合、冷暖房に必要な熱を無理に送るには、温度差を大きくつけるしかありません。しかし、空気は温度によって体積あたりの重さ「密度」が大きく変化します。図2に示すように、温度が10℃変化すると、密度はおよそ3%変化します。

10℃でたかだか3%の密度の変化なんて大したことない、と思うかもしれませんが、実は意外と大きな影響があります。エアコンの吹き出す冷たい空気が低温だと、重たいので下に落ちてきて居住者を直撃します。エアコン冷房の不快を訴える人が多い原因の一つは、低温の重たい冷気を吹き出しているからなのです。

また逆に、高温の空気は軽いので、上へ上へと昇り、2階やロフトに熱気が溜まります。夏の日中に2階に登ると、暑さにクラクラしたという人も多いでしょう。上に溜まった熱気はエアコンもなかなか吸い込めないので、長時間滞留してしまいます。

温度というと空気温度ばかりが気になりますが、人体の放熱の半分は床・壁・窓・天井の表面温度である「放射温度」で決まることを忘れないようにしましょう。天井付近に高温の空気が溜まっていると、天井の表面温度=放射温度が上昇し、不快の原因となるのです。


冷房吹出温度は室温マイナス10℃が下限|風量確保を確実に


(図4)水平吹出口の到達距離と降下距離
低温の空気は重いので、水平に吹き出した際の降下距離が大きくなり、人に直接当たりやすくなります。
冷気を人に当てない快適冷房のためには、吹出温度と室温の差を小さくする必要があります(空気調和・衛生工学会便覧を元に筆者作成)

図4に、水平に空気を吹き出した場合の、降下距離を示しました。吹出口から毎秒3メートル(住宅での一般的な値)で吹き出した空気が、人に当たっても感じにくいとされる風速0.5m/s以下になるまでの到達距離は、およそ3メートルです。その間に、室温より5℃冷たい空気は0.5メートル、10℃冷たい空気は1.0メートル、15℃冷たい空気では1.4メートルも下がってしまいます。低温になるほど、吹出口の下で暮らす人に冷気が当たってしまうことが分かります。


(図5)冷房では吹出空気と室温の温度差はなるべく小さく

快適な冷房を実現したければ、冷房負荷がピークとなる時間帯でも、吹出温度を室温マイナス10℃程度に抑えることがオススメです(図5)。小さな温度差でちゃんと冷房するには、風量の確保がもっとも大事です。温度差が大きくて、おまけに風量が少ないようでは、冷気は床に真っ逆さまに落ちてしまいます。特に少風量タイプでは余裕がないため、想定した風量がしっかり吹き出すよう、慎重に設計・施工を行う必要があるのです。


送風ファンが圧力を供給し、ダクトが圧力を消費する


(図6)送風ファンが与える送風エネルギーは、ダクト等の圧力損失と吹出空気の動圧と等しい

ダクト式の空調機で十分な風量を送り込めるかどうかは、送風ファンが空気に加えたパワーである「静圧」と、そのパワーを消費してしまうダクト等の「圧力損失」の力関係で決まります。

ちょっと難しい話になりますが、空気の持っている圧力は、エネルギーと本質的に同じです。圧力の単位Pa(パスカル)は、面積あたりの力(N/㎡)を示しますが、空気の体積)をかけるとエネルギー量のジュールになります(N・m=J)。

空調機の送風ファンは、静圧という種類の圧力(=エネルギー)を空気に加えます。その与えられた静圧エネルギーにより空気が動き出すと、吸込口・ダクト内部・吹出口の内壁に空気が当たって摩擦が生じ「圧力損失」が生じエネルギーを失います。最後は静圧エネルギーから圧力損失を失った残りの「動圧」だけをもって、空気は吹出口から飛び出します。ファンが動く限り、静圧エネルギーに釣り合う「摩擦損失」と「動圧」となるだけの風速で、空気は流れ続けるのです(図6)。

ファンが与えることができる静圧は、方式によって大きく異なりますが、住宅用空調機であれば100~200Paが一般的です(正確には風量により静圧は変化。これをP-Q特性と呼びます)。

一方、吸込口・ダクト・吹出口などの圧力損失は、中を通過する空気の「風速の二乗」に比例します。つまり、風速が2倍になると圧力損失は4倍になるため、風速の影響が大きいのです。一般的に、ダクト内の風速は、主に騒音防止のために、風速3~4m/sとするのが一般的ですが、圧力損失低減のためにも、風速を低く抑えることが重要です。


ダクト径半分で圧力損失は32倍 ダクト径には余裕をもって!


(図7)内径を半分にした場合の圧力損失の増加

ダクト式空調では、ダクトを梁下などに通すのが大変なため、ついつい細い口径のダクトを選びたくなります。特に、冷房用は断熱材がついていて外径が太くなるので、なおさらです。

しかしダクトを細くすることは、風速の増加、しいては圧力損失の急増を招き、想定した風量が出なくなるリスクが大きいので、特に注意が必要です。図7に示すように、ダクトの内径を半分にした場合、断面積は1/4になり(二次元の面積なので、半分ではないことに注意!)、風速は4倍になります。前述の通り、圧力損失は風速の二乗(16倍)に比例しますが、圧力損失の式ではもう一つおまけのペナルティーがかかるため、実に32倍もの圧力損失の増加となってしまいます。送風ファンから供給される静圧が同じ場合は、風量が1/√32、およそ6分の1に大幅ダウンしてしまうのです。


(図8)圧力損失を抑えたダクト内径選定の目安


図8に示すように、ダクト内の風速が4m/s以下となるよう、風量に合わせた内径を選んでおけば、ダクト1メートルあたりの圧力損失は4Paに抑えられます。送風ファンの供給できる静圧の合計が100~200Paであること、長さが10メートルを超えるダクトは普通で、曲がりなどの圧力損失も考慮すると、この内径を上限とすべきでしょう。ダクト長が長い、曲がりが多い系統では、なるべく余裕をもった太目の内径を選びたいものです。

吸込の空気は速度の減衰が早く指向性がない
◆遠くまで届く吹出の空気が空調設計の基本


(図9)吸込口と吹出口は、風速の減衰と指向性が全く違うことに注意

全館空調の実例を見ていると、空調機への戻りにつながる「吸込口(リターン・RA)」の配置を重視している場合が見られます。吹出口をつけていない空間に吸込口をつけたりして、空気の誘引を期待しているようですが、吸込口は気流制御の効果が小さいことは覚えておきましょう(図9)。

空気を吸い込む身近な機械である「掃除機」を思い出せばすぐ分かりますね。先のノズルをゴミのすぐ近くに持っていかない限り、ゴミは全く吸い込まれません。同じように、吸込口の風速は、口から少し離れるだけで急激に減衰してしまいます。しかも指向性がないために、全方位から均等に吸い込む性質があります。周辺の空気をなんでもかんでも均等に吸い込んでしまうため、特定の向きに「えこひいきして」吸い込んでくれることを期待してはいけません。

一方、吹出口の空気は、フラップを向けた向きに遠くまで届くため、気流の制御が容易です。扇風機やサーキュレーターの風が遠くまで届くのと同じです。室内全体を暖冷房するための空気の流れは、「到達距離が長く指向性が強い」吹出口で調整するのが基本です。



今回は、全館空調の選択と設計に必要な、空気と熱の基礎について、かなりポイントを絞ってお話ししました。これくらい理解しておけば、後はちょっとの手計算で、目処をつけることができるはずです。

全館空調と名乗っている形式の中でも、こうした風量や温度差の計画が全く不明なものが少なくありません。たしかに、断熱気密と日射遮蔽を徹底して外乱を減らせば、冷暖房に必要な熱(熱負荷)は小さくなりますが、人体や家電からの発熱は残ります。個室でも1人+家電で300W程度の冷房負荷は当然ありえるわけで、図1の式から必要な風量と温度差を計算してみれば、住宅といえど、きちんとした空調計画が不可欠なことはご理解いただけると思います。


次回は、暖房について、建物性能と全館空調の設計について、見ていくことにしましょう。


 
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前 真之さん
東京大学

東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 准教授。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2004年建築研究所などを経て29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

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