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2019/09/17 09:59 - No.569


第2回 なぜ「断熱」するの?(1)


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省エネのキホン
堤 太郎

2019/09/17 09:59 - No.569

 
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(前回記事はこちら



今回も、「住まい手ファースト」の視点で考えてみましょう。

たとえば、「なぜ断熱するの?」という問いに対してワン・フレーズで答えなければならないとしたら、あなたはどのように答えますか?

私はまず「温度差をなくすため」と答えます。

不思議に思われるかも知れません。

断熱性能が高くなるほど家の中と外の温度差が大きくなるのでは、と考えるのが普通ですよね。

それは確かにその通りなのですが、実際に何十年も暮らすであろう「住まい手」の毎日の健康性(およびその結果としての快適性)に注目すると、温度センサーなどの「機器」ではない、「人体」に周りの環境がどう作用するか、という点を考える事がとても重要になってきます。

「人体」にとって「呼吸」に並び重要なものが「放熱(ほうねつ)」です。

体内の深部体温(安静時ほぼ37℃)を一定に保つことが生命を維持するためには不可欠であり、それには体内で発生する「代謝(たいしゃ:食事・水分を元にして細胞で起こる燃焼)熱」と「放熱」のバランスが取れていることが重要です。



主に肌の表面等から(30℃~35℃で)、周囲に自然に放熱できるのが、人体にとっての「健康的」かつ(個人差はありますが)「快適」な環境であると言えます。

「人体」からの「放熱」にはさまざまな形がありますが、その中でも「放射」による割合が大きいことに注目しましょう。


ちなみに、「放射」とは、室内で熱が伝わる際の3要素、
「伝導(でんどう)」
「対流(たいりゅう)」
「放射・輻射(ほうしゃ・ふくしゃ)」
のうちの一つです。

(サーモ画像で色分けとして見えるのは、物質が「放射」している熱エネルギー量の違いであると言えます)


よって「人体」が
⇒周囲から不要な放射をもらう
または
⇒過剰に放射が逃げていく
という自然な放熱をさまたげるような状態にあるとき、「不快」な環境であると言えます。

ここで改めて、「人体」に作用する室内の温熱環境を見てみましょう。


この6種類の要因については、「住まい手」自身が(程度の差はありますが)、任意に調節できるものがほとんどです。

たとえば、
「室温」暖冷房器具、日射調節、通風
「湿度」暖冷房器具・除加湿器、通風、家事(室内干し等)
「気流」エアコン・ファンヒーター・扇風機等、通風
「放射」日射調節、採暖器具
「着衣」衣服(量・素材)調整
「代謝量」運動~作業~安静
という具合です。

ところが、図の中で一つだけ、「住まい手」による任意の調整が出来ない項目があります。


それが天井・外壁(窓含む)・床という「周囲の平均表面温度」なのです。

これら各部位の表面温度は、その部位の断熱性能(熱抵抗値)によって決まります。

「断熱」とは、その部位の熱の移動をいかに遅らせるか、ということであり(この内容は別の回にて再度取り上げます)、「断熱性能が高くなるほど、その表面温度は室温に近づく」ということが言えます。

なぜここまで「周囲の平均表面温度」を気にするのでしょうか?

それは冒頭にお伝えしましたように周囲の環境を「人体」がどのように受け取るか、がポイントとなります。

実際の「暑さ」「寒さ」を決定づける、いわゆる「体感温度」というものは室内の温度と周囲の表面温度の平均で表されます(厳密には「作用温度」と称されるもので、より細かい指標が他にあります)。


同じ室温でも体感温度が低ければ「寒い」のです。
(逆に夏場も同様で、体感温度が高ければ「暑い」のです)

これらの度合いが大きいほど不健康を招き、極端な状況の家ではヒートショックや熱中症も起こりかねません。
「住まい手ファースト」からほど遠い状況です。

当然、そのままでは「寒い(もしくは「暑い」)」ので、暖冷房器具のエネルギー消費量もどんどん多くなります。
「省エネ住宅」からもほど遠い状況です。

これらはすべて基本的な「(外皮の)断熱」が足りないことによって起きることで、それ以外の設備・パッシブデザイン以前の問題です。


内容をまとめますと、

断熱の目的:
◆「温度差をなくすため」(居住者視点)
・室温と周囲平均表面温度の差をなくす
 住まい手の意図した温熱環境を実現する
 ⇒ 快適(=健康的)な体感温度を得る
・家中の温度のバラツキをなくす
 ⇒ 温度のバリアフリー
という視点の重要性を挙げました。

そしてもちろん本来の目的として
◆「外部との熱の移動を断つ」(省エネ視点)
・冬場の流出、夏場の(熱・日射)侵入を断つ
 ⇒ エネルギーロスをなくす
があり、昨今は
◆「災害時の避難シェルターとしての性能を」
 (インフラ断絶時の居住リスク低減)
という面も無視できません。


次回は「断熱と健康面との関係について」を予定します。


オマケ:
「周囲の表面温度」については、実際に測ってみましょう。





このための「放射温度計」は、(設計・施工問わず)住宅のプロなら必携ですね。

離れた壁面や床下スラブ面等も簡単に測定できるタイプが良いと思います。




 
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堤 太郎
一般社団法人 みんなの住宅研究所

一般社団法人 みんなの住宅研究所 代表理事/株式会社 M's構造設計所属。一級建築士、CASBEE戸建評価員、BISほか。1966年奈良県生まれ。1990年摂南大学工学部建築学科卒業。関西商圏のビルダーに27年勤務し、主に2x4工法(枠組壁工法)の戸建住宅設計に携わる。2013年にドイツのフライブルクをはじめとした各地の研究機関・企業等をツアー視察した後、ATC輸入住宅促進センター(大阪市)主催の省エネ住宅セミナーにて、企画のアドバイスやパネルディスカッションのコーディネーターとして複数参加。2018年にM’s構造設計に参加、「構造塾」講師や「省エネ塾」の主催、個別コンサルタント等を行っている。

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