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2020/09/08 09:10 - No.864


第4回 接合部の重要性(その2)


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動画でわかる!木造住宅の耐震性能
中川 貴文

2020/09/08 09:10 - No.864

 

(前回記事はこちら


前回の「接合部の重要性(その1)」では、接合部の設計が建物全体の耐震性能に大きく影響を与えることを地震被害調査結果やシミュレーション結果を用いて解説しました。

耐力壁を強くした場合、性能を十分発揮させるためには接合部も強くする必要があるということでした。

今回はもう少し掘り下げてみます。


【接合部設計の基本】

3階建ての木造住宅は構造計算(許容応力度計算)が必要となりますが、2000年以前の構造計算では接合部は壁の「存在応力」により設計されていました。

壁の「存在応力」とは次の図の上段のように地震により発生した、壁を回転させようとする力に対して、対抗できる引っ張り力を持った接合部を選択するという設計法です。

特に問題ないように思いますが、2000年の建築基準法改正の時に、壁の「存在応力」による接合部の設計が、壁の「許容応力」による設計(いわゆるN値計算)に改められます。

N値計算では次の図の下段のように(地震により壁に発生する力はさておき)壁の強さ(壁倍率)に応じて接合部の仕様を決定します。そのため、地震により壁に発生する「存在応力」よりも大きな力(壁倍率=「許容耐力」)により接合部を設計ため、ホールダウン金物のような、より強い引っ張り力を持った接合部が要求されます。

一見、過大な設計にも思えますが、これは壁が最大の力を発揮しても、その力により接合部が絶対に破壊しないよう「保証」するという考え方(保証設計)に基づくものです。

保証設計が導入されたのは、2000年の改正で木造住宅が大地震に対しても倒壊しないことを明確に検証するようになったからです。「大地震に対して倒壊しない」という考え方は1981年に導入された新耐震設計法に遡ります。

新耐震設計法では建物重量の100%の地震力(大地震)に耐えることが求められましたが、木造住宅の構造計算では建物重量の20%(中地震レベル)の地震力で設計するため、20%を超える地震力が壁に生じた際に接合部が先に壊れる可能性があるため、「保証設計」=「壁の許容耐力(ポテンシャル)により接合部を設計する」という新たな考え方が導入されました。

接合部を強くして、必ず壁から壊れるように保証し、壁量を十分確保することで建物を倒壊させないことが現在の木造住宅の耐震設計の原則となっています。

 壁の「存在応力」による接合部設計 


 壁の「許容耐力」による接合部設計(N値計算) 


接合部の2つの設計法の検証実験】

2009年10月にE-ディフェンス(防災科学技術研究所)で行われた実験では「存在応力」による接合部設計と「許容耐力」による接合部設計の2棟の3階建て木造住宅の実大振動台実験による比較検証が行われました。

建築基準法の「大地震」のレベルの地震動入力ではどちらの試験体も倒壊することはなく、現在の木造住宅の持つ耐震性能の高さが証明されました。

その後に大地震の1.8倍に相当する大きさの巨大地震の入力を行い、建物の破壊性状の確認が行われました。

次の動画です。


左が壁の「許容耐力」により接合部設計(N値計算)した建物、右が「存在応力」により接合部設計した建物です。

左の方が倒壊しているので、左右が逆では?と思われるかもしれません。

しかし間違っていません。この実験は当時、「長期優良住宅が倒壊」という見出しで新聞に掲載されて話題になりました。

先ほど説明した「保証設計」の考え方からすると、左の「許容耐力」の試験体は破壊の順番としては接合部が壊れずに壁が壊れるというのは設計の想定通りということになります。

それに対して右の「存在応力」の試験体では地震動入力後10秒ほどで接合部が破壊しています。

実験では一般的な住宅基礎がなく、鉄骨架台に土台を直結するという特殊な支持条件であったため、右の建物はある程度の面積のある鉄骨架台にうまく着地し、倒壊を免れています。

しかし実際の建物では基礎の立ち上がりがあるため、そこから脱落して重大な被害を受ける可能性が考えられます。

次の図に説明した通り、「許容耐力」の試験体は壁量を上回る応力が生じて、壁が壊れてしまったことになります。




実験結果をポジティブに解釈すると、「許容耐力」の建物は倒壊しましたがN値計算で設計を行うと「接合部は壁が壊れるまで破壊しないこと=保証設計」が成立したことが実験で明らかになったとも言えます。

倒壊しないためには十分な壁量確保と接合部の保証設計が重要ということが改めて分かります。

「存在応力」の建物で接合部が破壊した後に生じたロッキング現象は、最近では免震技術としてビルの設計で実用化されている事例もあります。

接合部をあえてフリーにして、ロッキングにより地震エネルギーを吸収する手法です。

しかし、このような複雑な物理現象を単純化して木造の構造計算や壁量計算に適用することは難しく、木造の耐力壁構造では接合部を壊さない保証設計が原則となっています。

接合部が破壊した後のロッキング現象や、基礎の立ち上がりから柱脚が脱落するなどの複雑な物理現象はwallstatを用いることで再現することができます。


動画で分かる破壊挙動

その1」で紹介した通り、wallstatでは耐力壁の強さや接合部の強さを実際の建物仕様に応じて設定することができます。

次の動画は先ほどの振動台実験の試験体2棟をwallstatでモデル化して、同じ地震動で揺らしたものです。


右の建物の柱脚接合部が先行破壊してロッキングを開始する過程や、左の建物では接合部は破壊せず壁が破壊して1階が完全に崩壊する挙動が再現できていることが分かります。

wallstatでは設計の安全性を確認することはもちろんですが、設計で想定している以上の地震動が生じた場合の破壊過程を動画により確認することができます。

先ほど右の「存在応力」の試験体は基礎の立ち上がりから柱脚が脱落すれば、重大な被害を受ける可能性があったと言いましたが、次の動画は「存在応力」の試験体の解析モデルに対して、基礎の立ち上がりが40cmあると仮定してシミュレーションを行ったものです。

柱脚接合部が破壊し柱が引き抜けると、基礎立ち上がりから脱落し40cm下の地表面に落下する計算条件としています。


振動台実験では柱脚が鉄骨架台に着地したため倒壊を免れましたが、基礎の立ち上がりから脱落すると建物は倒壊に至る可能性が高いことがシミュレーションで示されました。

逆に考えると、基礎立ち上がりからの落下を上手く防ぐことができれば、ロッキング免震のような耐震性の極めて高い建物が、接合部をそれほど強くすることなく実現できる可能性を示しているとも考えられます。

今後、技術開発が進展して、ロッキング現象も木造住宅の設計で考慮できるようになることに期待したいです。

前回と今回でご紹介したシミュレーションや振動台実験により、接合部の設計の重要性をご理解いただけたかと思います。



▼wallstatダウンロードはこちらから▼
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/~nakagawa/







第1回 住宅の耐震性能をお客様にどうプレゼンするか?

第2回 壁量はどれくらい必要か?

第3回 接合部の重要性(その1)

第4回:接合部の重要性(その2)



 
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中川 貴文さん
京都大学生存圏研究所

2003年東京大学大学院修了後、民間企業を経て、2005年より国土交通省国土技術政策総合研究所及び建築研究所にて木造の耐震の研究に従事。2010年に「wallstat」の無償公開を開始。2018年より現職。2019年文部科学大臣表彰。博士(工学・農学)。

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