▼はじめに
2021年11月2日、富山県黒部市で、各専門分野の有識者が参加して座談会が開催されました。テーマは「パッシブタウン -省エネ・創エネのその先へ カーボンニュートラルなまちづくりへの挑戦- 」です。当記事は、その座談会の内容を一部切り取ってご紹介する記事となっております。
連載1本目となる記事では座談会全体について紹介させていただきました。そして、連載2本目以降の記事では「パネリストVoice」と題して、座談会にパネリストとして登壇いただいた有識者の方々のコメントを記事化してお届けします。今回は、早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 建築学科 教授・工学博士、日本建築学会 会長 田辺新一さんのコメントです。
※座談会のポイントをまとめた冊子(PDF)はページ最下部にて閲覧いただくことが可能です
▼黒部で何が起きるか。脱炭素化に向けた挑戦に期待
田辺新一さん(早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 建築学科 教授・工学博士、日本建築学会 会長)
Q&A
住宅分野の省エネルギー・脱炭素対策促進が急務と言われる中、パッシブタウンの意義をどうお考えでしょうか
脱炭素化の世界的な潮流
私自身の専門が「建築分野における脱炭素化」ということもありまして、パッシブタウンの進展と今後についてのお話は、いずれも非常に興味深いことばかりです。
考えてみれば2021年は、環境問題や社会の持続可能性に関わる報道がとりわけ多く、さまざまな形で世界を賑わせました。
たとえば、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が「人間が温暖化に影響を与えたことは疑う余地がない」と公式に発表したことも記憶に新しいところです。
しかしながら、もっとも大きかったのは、やはり英国でCOP26が開催されたことでしょう。これにより、世界のカーボンニュートラルに向けた動きはさらに加速することになりました。もちろん、これは我が国も例外ではなく、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減するというNDC(国が決定する貢献)を公表しました。また、エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画などが矢継ぎ早に閣議決定されています。
イノベーションに必要なマインドとは
地球の平均気温の上昇を、産業革命前から2.0℃未満に抑える、加えて1.5℃未満を目指すこと。これは2015年のパリ協定で掲げられた目標ですが、ここには一つの示唆が込められています。つまり産業革命が起点で、それ以降の世界の発展、もっといえば化石エネルギーの力で得た発展の延長線上には、人類の未来を描くのが困難になり始めていることを意味しているのです。
ですから、単なる環境対策の延長ではなく、産業や社会構造の変革が生じると捉えることが大切です。
新しいエネルギー革命やイノベーションが必要になっています。
たとえばAppleは2030年までにサプライチェーンを含めてカーボンニュートラルの100%達成を公言していますが、これと同じことが他の分野でも求められるようになるでしょう。
であれば、黒部でも早々に国や自治体とも連携しながら、新しい可能性を模索すべきだと思うのです。
私は建築分野の専門家の一人として「まず何よりも建物外皮性能を徹底的に高めるべきだ」と考えています。断熱や日射遮蔽、自然換気などのパッシブの探究は、すべての住宅性能の基本となるからです。したがってパッシブタウン前期街区の試みにも大変感心いたしました。さらに後期街区からは、いよいよ先進的な創エネにも取り組むとのこと。欧米ではリスクを恐れず新規分野に参入する企業をファーストペンギンと呼ぶことがありますが、イノベーションを起こすにはこうした試みが不可欠です。それだけに道を切り開くのは簡単ではないと思いますが、今後、黒部で何が起きるのか、楽しみにしています。
※当記事に添付した冊子PDFより抜粋
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