YKK AP株式会社が発行する建築業界情報誌「メディアレポート」の「特集」では、季節の話題や特にお伝えしたい情報をご紹介しています。
今回はメディアレポート 2024年12月号に掲載された「地域特性を踏まえた 機能×性能×デザイン×脱炭素のまちづくり」をお届けします。
地域特性を踏まえた
機能×性能×デザイン×脱炭素のまちづくり
北海道南幌町で、建築家と地域工務店で創るクオリティ・ファーストの住まい「みどり野 ゼロカーボンヴィレッジ」が進みつつある。「北方型住宅ZERO」の普及を目的に、地域の気候風土に適した住まいを官民協働で実現する。
南幌町の「みどり野 ゼロカーボンヴィレッジ」は、北海道、南幌町、北海道住宅供給公社、(一社)北海道ビルダーズ協会、(公社)日本建築家協会北海道支部が協働でまちづくりを進めているもの。
都市と田園のバランスがほどよい”緑・農・住のまち“南幌町を舞台に、2050年「ゼロカーボン北海道」の実現に向け、地域の気候風土に適した脱炭素対策を講じた住まいとサスティナブルな暮らし、自立しながらも助け合えるようなコミュニティづくりを提案している。
具体的には、”クオリティ・ファースト“を前提に、高い性能を実現する技術力と専門知識を持った地域工務店と建築家が共通ルールのもとコラボレーションし、南幌町の豊かな自然を活用した快適で豊かな暮らしを可能とする住まいをつくる、全8区画の売建て住宅によるまちづくりだ。
地域工務店と建築家がコラボするまちづくり
地域工務店と建築家による参加グループは、全11グループがエントリー。それぞれのグループが一定のルールに基づき提案する個性豊かな住宅のモデルプランをプラン集にまとめ、気に入ったグループに設計・建築を依頼する。
北海道は2014年から一定の基準ルールを守る住宅事業者を「きた住まいるメンバー」として登録し、”北海道がおススメする住宅事業者“として公開している。優れた性能や地域らしさを持つ住宅づくりを加速させるとともに、「地域における住まいの担い手として地域工務店を位置づけることが重要」(北海道建設部住宅局建築指導課・渡邉純一課長)との狙いがある。
住宅事業者登録には「基本性能の確保」、「専門技術者による設計・施工」、「記録の保管」が求められる。
このメンバーの取り組みを「きた住まいるブランド住宅」として登録し、これまで「北方型住宅」、「北方型住宅ECO」、「北方型住宅R」が登録されている。2018年、この高い性能・機能を備えた「きた住まいるブランド住宅」で実現できる豊かな暮らしを住まい手にPRするため、地域工務店と建築家のコラボレーションによるまち「みどり野 きた住まいるヴィレッジ」を展開した。ここには建築家と組むことで地域工務店のブランド力を高めてほしいという狙いもあった。第1期として6棟のモデルハウスを建設、一定期間展示後に販売した。
今回の「みどり野 ゼロカーボンヴィレッジ」は、この「みどり野 きた住まいるヴィレッジ」をさらに推し進めたものと言える。北方型住宅が持つ性能・機能にデザイン性が加わり、今回さらに脱炭素という切り口が強化された。
脱炭素を目指す北方型住宅ZERO
共通ルールとなるのがサスティナブルな暮らしの実現に向けたゼロカーボン化だ。北海道が2023年から推奨する「北方型住宅ZERO」の仕組みを活用する。
「北方型住宅ZERO」は、北海道地球温暖化対策推進計画における2030年度の温室効果ガス排出量削減目標である48%(2013年度比)に向け、現行省エネ基準と比較して約30%のCO2排出量削減を目指す。
具体的には、「北方型住宅2020」で求めている外皮平均熱貫流率(UA値)0.34W/(㎡・K)以下、気密性能(C値)実測値1.0以下、1次エネルギー消費量(BEI)0.8以下が ベースとなる。加えて、脱炭素化に資する対策にポイントを付けて示し、その合計ポイントが10ポイント以上になることを求めている。対策としては、外皮平均熱貫流率を0.20W/(㎡・K)以下、太陽光発電設備を屋根面と壁面に設置(合計5kW)、太陽光発電設備と連携して蓄電池設備を設置、主たる構造材に道産木材を活用、木質バイオマス(薪ストーブ等)を補助暖房に利用、などがあげられている。
南幌町の人口増加率が全国町村の第1位に
南幌町は人口減少が課題であったが、「みどり野 きた住まいるヴィレッジ」が大きな起爆剤となり、近くにはこのヴィレッジの雰囲気を取り入れた屋内遊戯施設「はれっぱ」もオープンした。こうしたまちづくりが南幌町のブランド力を高め、日本人の人口増加率が全国の町村で第1位となった(2023年1月1日時点)。
「みどり野 ゼロカーボンヴィレッジ」は「北方型住宅ZERO」の普及・拡大を目的とするものであり、高い性能や機能、デザイン性、地域の暮らし方、さらには脱炭素というこれからの時代に不可欠な住まいのあり方・暮らし方を提示するものとなる。
「地域工務店が元気でいること、そのためには地域に根ざした取り組みが必要。工務店、建築家、行政が一体となり、まちをつくっていく。それをサポートするのが道庁の役割だと考えている」(渡邉課長)。高気密高断熱という日本の新しい住宅のあり方を先導してきた北海道の地で、新たな動きが始まっている。
地域の家づくりのスタンダードを
全11グループのなかで、最初に引き合いがあったのが「Team KAPS(紺野建設/山本亜耕建築設計事務所)だ。施主は札幌市内で築7年の住宅に暮らしているが、子ども3人で間もなく4人目も産まれるというなかで家が手狭になり、子育て政策に前向きで札幌のベッドタウンとしても成長する南幌町に関心を持っていた。山本氏のウェブを見て家づくりに興味を持って問い合わせをしてきたという。
北海道でも珍しい大家族のため、普通にプランニングすると家が大きくなりすぎてしまう。そのため「床下から天井裏まであらゆるところを使う提案」(山本氏)を行っている。例えば、小屋裏空間をロフトとして活用し、暖房換気設備を床下に設置するなどだ。坪数を圧縮しながら容積を増やすことで、3×5間の長方形の2階建て住宅をデザインした。
「北海道の家づくりは冬を重視したもの。この地域のスタンダードをつくろうというのが今回のプロジェクトの狙い。プランニングにあたっては、除雪道具や冬専用の靴や服を考慮した収納、また、家族の人数分の自転車置き場など、北国専用の間取りを提案した」(山本氏)という。来年4月の入居に向け、詳細な仕様の最終詰めの段階にある。
きた住まいるヴィレッジから次のステップへ
北海道から最初の枠組みの提案を受けた時、対象事業者を北海道ビルダーズ協会の会員に絞ってほしいと要望を出しました。私たち北海道のビルダーが地域の環境や歴史を踏まえ断熱、気密、暖房、換気といった現在の省エネ技術を作ってきたという自負があるからです。
「北方型住宅ZERO」は全国一律の「ZEH」とは異なり、北海道の地域特性を加味していることが大きなポイントです。例えば、バイオマスエネルギーの暖房利用が対象になっています。なかでも薪ストーブであれば、エネルギーを地域で確保できます。鋸や斧さえあれば、ユーザーが作れる唯一のエネルギーを使うことができます。「みどり野 きた住まいるヴィレッジ」は、参加事業者が仕様を決めましたが、今回はあらかじめポイント制を導入した仕様を決めました。これまでの実績を踏まえ、次のステップに進んだものと考えています。「みどり野 ゼロカーボンヴィレッジ」に建てる住宅でどのような暮らしができるのか、そこがスタートとなります。
ゼロカーボンでどんな暮らしができるのか
「みどり野 ゼロカーボンヴィレッジ」の取り組みにおいて、ヴィレッジをどのようにつくるか、そのコンセプトワークと、それを実現するための手法などの検討に携わりました。
南幌町は土地が豊かで空が広いことが大きな魅力です。「みどり野 きた住まいるヴィレッジ」で提示した「クオリティ・ファースト」を継承しつつ、南幌町でどのように気持ちよく暮らせるのか、ゼロカーボンでどのような暮らしができるのかを考え、具体的な手法に落とし込みました。例えば、太陽の恵みを生かした壁面への太陽光発電の設置や蓄電池の導入などです。また、一定の敷地の広さを確保し、敷地のどこに建物を建てるかを考え、空いたスペースを活用してまちなみをつくっていくようにしています。豊かな暮らしを生み出すこと、それが結果としてCO2削減につながる。それが住宅1棟ではなくヴィレッジとする意味。そこに行政と民間が一体となって取り組むこと自体が重要なことだと考えています。
みどり野ゼロカーボンヴィレッジの詳細についてはこちらの専用HPをご覧ください。
https://www.replan.ne.jp/articles/42243/
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