
木造住宅の耐震性はどうやったら確認できるでしょうか?消費者への説明が難しい「耐震性能」を分かりやすくプレゼンできるwallstatは住宅会社、設計事務所、建材メーカー等で実務への導入が進んでいます。本テーマでは、wallstatを用いた耐震シミュレーション動画を使って木造住宅の耐震性能をわかりやすく解説していきます。
(前回記事はこちら)
※前回から時間が空いてしまいましたので、お時間のある方は「第7回 壊して知る耐震性能 その1」をまずご一読ください。
【木造住宅に求められる耐震性能】
「第7回 壊して知る耐震性能 その1」では変形と荷重の関係を解説し、「建物重量の20%の荷重ラインを降伏点が超えること」が耐震設計の目標だと解説しました。これは木造に限らず他の構造でも共通の考え方です。実はもう一つあって「建物重量の100%の荷重ラインを最大荷重が超えること」も2つめの目標として求められています。前回の図に書き加えると以下のようになります。
この図を見ると建物重量の100%のラインは最大荷重のはるか上にあります。これだと2つ目の目標を超えることは到底不可能のように思えます。しかし、耐震設計の中には建物の「粘り強さ」を考慮して建物重量の100%に低減係数(構造特性係数Ds)を乗じて良いきまりがあります(※1)。一般的な木造だと低減係数は0.3~0.5程度ですので、建物重量の30%~50%のラインを超えれば良いことになります。次の図の通りですが、これくらいなら、なんとかなりそうですね。
この二つの目標(要求性能)は1981年の「新耐震」以降、現在も耐震設計の基本になっています。それぞれ「一次設計」「二次設計」と呼ばれています。現在の耐震設計では
① 一次設計では、中地震に対して損傷しないこと
② 二次設計では、大地震に対して倒壊しないこと
が求められています。言い換えると
① 中地震=建物重量の20%で、降伏点を超えない
② 大地震=建物重量の100%(×低減係数)で、最大(終局)荷重を超えない
ということになります。3階建て木造住宅の構造計算をされたことがある方は、「建物重量の20%」は「Co = 0.2」であり、「降伏点」は「短期許容耐力」であることをご存知だと思います。しかし②を検討されたことがある方が少ないのではないでしょうか?新耐震では①と②が両方求められているのですが、木造住宅の構造計算や壁量計算では一次設計(許容応力度計算)を検討するだけでOKとなっています。
二次設計はどこにいってしまったのでしょうか?実は木造住宅の耐震設計では一次設計をすると、二次設計もOKになってしまうカラクリがあります。簡単に言うと木造住宅の主要な耐震要素である耐力壁の「壁倍率」を決める時に大地震を考慮した低減が考慮されているため、中地震に対してチェックするだけで大地震でもOKとなっています(※2)。
それでは、wallstatを使って中地震、大地震の地震動の大きさはどの程度のものかシミュレーションしてみたいと思います。まずは中地震からです。中地震は数十年に1回起こる地震動の大きさといわれています。揺らしたのは建築基準法をぎりぎり満たす壁量の木造住宅の解析モデルです。
揺れがかなり小さいことがわかります。建物に損傷はみられず(wallstatでは壁が降伏点を超えると色が黄色になります)、この解析モデルは中地震に対しては要求性能を満たしている事がわかります。次に大地震です。大地震は数百年に1回起きる地震動の大きさといわれています。
大地震では、少し損傷が生じましたが、倒壊はしなかったので大地震の要求性能を満たしていることがわかります。
もう少し詳しく分析してみます。第5回で応答スペクトルの解説をしましたが、今回使った大地震の応答スペクトルは次のグラフです。地震動の加速度応答は最大で1000gal(gal=cm/s/s)程度になっています。
2つスペクトルがありますが、左が加速度で右が変位のスペクトルです。それぞれ建物の固有周期がわかれば、建物に生じる加速度と変位を概算することができます。また赤と青のラインがありますが、建物の「減衰」を考慮したもので、詳しくは次回以降解説しますが、今回の解析モデルのように降伏点を少し超えたくらいだと5~10%程度の減衰になります。この解析モデルの固有周期(第6回参照)は最大応答時で0.43秒でした。応答スペクトルでは次の図の点線の0.43秒での加速度が700~100gal程度、変位が3~4cm程度と読み取れます。
実際はどれくらいの加速度、変位が記録されていたのでしょうか?wallstatは揺れている最中の解析モデルの加速度や変位を出力できます。次のグラフのようになります。
最大で760gal、3.7cmを記録していました。スペクトルの数値と概ね一致していますね。応答スペクトルと固有周期と減衰がわかれば、建物の応答(最大加速度、最大変位)を予測できることがわかります。
2000年に登場した「限界耐力計算」は今回紹介した応答スペクトルを利用して、建物の応答を概算する方法です。次回もう少し掘り下げて解説します。
(注1)保有水平耐力計算(ルート3)による設計法
(注2)詳細な解説は「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」など参照
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https://support.wallstat.jp
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動画でわかる!木造住宅の耐震性能
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