◆はじめに
当連載記事では、管理組合を対象とする「コンサルティング」や「顧問業務」などを生業にしている "マンション管理士としての経験とノウハウ" をもとに、昨今の業界の動向などをテーマに取り上げ、『マンション管理に携わる皆様に役立つ情報』を提供していきたいと思います。
神奈川県内にある築26年のマンションでは、2回目の大規模修繕工事に向けて資金不足を軽減するために、今年1月の通常総会で修繕積立金の大幅な改定を議案として上程しましたが、賛成の数が管理規約の要件を満たさなかったため承認に至りませんでした。
その後、管理組合の顧問に就任した筆者がその議案書を確認したところ、この議案が「特別決議事項」として上程されていたことがわかりました。区分所有法では、管理規約の改廃や共用部の変更など特に重要な議案は「特別決議事項」とし、「全組合員ならびに議決権総数の各4分の3以上の賛成」が必要と定められています。
ただ、管理費や修繕積立金の改定については特別決議事項ではなく、管理規約で特に定めがない限り「普通決議事項」として扱われています。普通決議事項の場合、「出席議決権の半数以上の賛成」が成立要件となるため、特別決議事項と比べると承認のハードルがかなり下がります。
そのため、この管理組合がなぜこの議案を特別決議事項として扱ったのかが理解できませんでしたが、調べてみたところ、管理規約に「意外なリスク」が潜んでいることが分かりました。
◆「親切な管理規約」がかえって災いになる!?
まず、マンション管理会社に特別決議事項として扱った理由をヒヤリングしたところ、「管理規約の書き方しだいでは、管理費等の改定も管理規約自体の改定とみなされて特別決議に該当することになるから。」という驚くべき回答がありました。
ちなみに、管理会社の所管団体にあたるマンション管理業協会や、知り合いのマンション管理士にも問い合わせてみたところ、上記と同様の回答でした。
具体的に管理規約のどの部分が問題なのかと言うと、他のマンションでも時折見受けられる以下のような条文のケースです。(下線部分に注目してください)
========
第25条(管理費等)第2項抜粋
1)管理費及び(2)修繕積立金の金額は別紙1記載の通りであり、各区分所有者の共有持分に応じて算出するものとする。
別紙1のタイトル
管理費・修繕積立金(第25条第2項)
(※ 住戸別の月額管理費・修繕積立金の一覧表がタイトル下に記載されている)
========
つまり、規約本文に「管理費等の額は別紙第○の通りとする」のような記載があると、管理費の金額が記載された別表自体も規約の一部とみなされてしまい、管理費等の改定が規約の変更を伴うものと解されるため、総会の特別決議が必要となるというわけです。
管理規約を読み手の立場から言えば、規約条文に参照すべき別表まで記載されていることによって分かりやすさが増すため、ある意味「親切な」構成とも言えるのですが、それが思わぬ方向での法解釈を生み出してしまうということです。
それでは、上述の事例のような管理規約の場合、どのように修正等の対応をすればよいのでしょうか。法律の専門家によれば、以下のような対応が有効とされています。
① 特別決議事項の一つとして列挙されている「規約の制定、変更又は廃止」の部分に、(別表記載の管理費・修繕積立金等の改定を除く)と追記する。
②規約本文が別表とリンクしないように「管理費等の額は別に定める」等の文言に条文を変更する。
③ 別表に「○○年○○月○○日現在、管理費等一覧表」のような標題をつけたうえで規約と別に管理する。
◆過去の判例を検証
とは言え、個人的には上述のような論点で実際に争いが生じるものか、正直なところ納得しかねるところがあったため、過去の判例を調べてみたところ、なんと約20年前に控訴審まで闘った訴訟事例があることが分かりました。(下記参照)
建築関係プロユーザー対象の会員制サイトです。