▼はじめに
2021年11月2日、富山県黒部市で、各専門分野の有識者が参加して座談会が開催されました。テーマは「パッシブタウン -省エネ・創エネのその先へ カーボンニュートラルなまちづくりへの挑戦- 」です。当記事は、その座談会の内容を一部切り取ってご紹介する記事となっております。
前回、連載1本目となる記事では座談会全体について紹介させていただきました。今回の記事以降では「パネリストVoice」と題して、座談会にパネリストとして登壇いただいた有識者の方々のコメントを記事化してお届けします。今回は、東京大学大学院 宮城俊作 教授のコメントです。
※座談会のポイントをまとめた冊子(PDF)はページ最下部にて閲覧いただくことが可能です
▼事業コンセプトは自然に同調するまち。培われたノウハウの継承と発展
宮城俊作さん(東京大学大学院 教授 ランドスケープアーキテクト・都市デザイナー)
Q&A
パッシブタウン全体を通じた狙いと、第5期街区での課題をどうお考えでしょうか
前期の成果とのシナジー効果を
私がパッシブタウンに関わるようになってから、かれこれ8年の歳月が経ちました。計画の初期段階から、エリア全体のマスタープランとランドスケープのデザインを担当させていただくこととなり、高い見識をお持ちの建築家とコラボレーションをする貴重な機会にも恵まれました。
「黒部川扇状地のローカルな自然エネルギーを最大限に活用すること」と「エネルギー消費をできる限り抑制しながら、快適な住空間を創出すること」。プロジェクト全体を包むまちづくりの大きなテーマには、当初から変わることなくこの2つが設定されています。一方で、具体的な設計においては、第1~3街区を担当した3人の建築家がそれぞれのアプローチで設計したことが功を奏し、街区ごとに異なる3つのソリューションを創出することに成功しました。
こうした提案性の高いプロジェクトをいかに地域全体に広げていくか―。私がランドスケープデザインに取り組むにあたって、常に意識しているのが、まさにこの点です。
そのためにも、開放的で地域とつながる空間構成や、人を惹きつける魅力的なパブリックスペースを有することが重要だと考えました。たとえばセンターコモンに地域の象徴でもある用水路と伏流水を引き込み、社会に広く開かれた豊かな緑地としたのも、このような想いがあってのことです。
新たなまちづくりのプラットフォームを
すでに発表されているように後期街区にあたる第4街区と第5期街区から、パッシブタウンは太陽光や水素を組み合わせた創エネや木造建築を通じて、新しい可能性に挑むことになります。この画期的な計画をより高いレベルで具現化するためには、前期街区で構築した環境を資産として継承・発展させながら、新たなシナジー効果を発揮させることが重要であろうと考えています。当然、コミュニティ空間としての機能を拡張しながら、より魅力的で地域へ価値を還元できる環境を整える発想も必要でしょう。
たとえば自然災害やパンデミックなどに備え、レジリエンス(回復力・復元力)を担保できるシステムを構築することも重要です。また、これを実現するには、一見無駄に思えるスペース、つまり空間の冗長性の価値についても再考しておきたい。その上で、多様な働き方の受け皿となること、あるいはマルチハビテーションや移住をサポートする機能も備えることができればと考えます。
木造建築への取り組みで期待しているのは、資源の地域循環を促進する新たなモデルを黒部から発信すること。そのためにも、地域と共に木材のサプライチェーンづくりに努める必要があるはずです。
最後に、公民学が連携することによって、パッシブタウンにおいてまちづくりの新しいプラットフォームを構築することができるのではと考えます。持続可能なコミュニティの実現に価値観を見出す人たちと共に、これからのまちや住まいの可能性を探求していく―。その拠点となるのが、パッシブタウンだと考えています。
※当記事に添付した冊子PDFより抜粋
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