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2022/06/28 07:30 - No.1187


第1回 『断熱化』が今後を生き抜く鍵となる


脱炭素社会における、工務店の生き残り戦略
竹内 昌義

2022/06/28 07:30 - No.1187

 


今、世界中で、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進められています。ようやく日本でも「環境負荷ゼロ」や「CO2排出ゼロ」の目標を掲げる企業が増え、政府により「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現する」という方針が定められています。そうした流れの中、どんな家づくりを進め、どのように売っていくべきか、経営方針に頭を悩ませている工務店もいることでしょう。実際、脱炭素社会に向けた新たな家づくり、経営をしていかないと、今後を生き抜いていくことはできません。 

なぜ今、経営転換が必要なのか?そのためには何をすれば良いのか?本連載でお伝えしていきます。 


◆エネルギー価格の高騰で脱炭素化は急務に! 

コロナ禍の影響などからガソリンやLNGなどのエネルギー価格は、昨年から世界的に上昇を続けてきましたが、今年に入りロシアによるウクライナ侵攻を機に、価格高騰に拍車がかかっています。エネルギー価格の高騰は、様々なものの値上がりにつながり、私たちの生活にも影響が出始めています。 

ガソリン価格の高騰に対しては国からの補助金も出ていますが依然高水準が続いており、電気代も上がり続け、この数ヶ月にわたり各社で過去5年間の最高水準を更新。今後も上がっていくことが予想されます。 

また電気に関しては、電力不足の問題もあります。今年3月、関東や東北地方に「電力需給ひっぱく警報」が出て、節電を呼びかけられたことは記憶に新しいでしょう。この時停電は免れましたが、この夏、そして次の冬には全国的な大規模停電のおそれがあるとされています。
 

■電気代の平均モデルの前年同月比 

  出典:東京電力エナジーパートナー株式会社「2022年7月分電気料金の燃料費調整について」(https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2022/1663068_8667.html)をもとに作成 

出典:世界経済のネタ帳(https://ecodb.net/commodity/group_ngas.html)

エネルギー価格の高騰は建築資材の値上がりにも影響し、またコロナ禍から始まった、いわゆる「ウッドショック」に加え、ロシアからの輸入制限により建築用木材不足も懸念され、建築業界には非常に厳しい時代といえるでしょう。前連載では、脱炭素社会に向けた家づくりについてお伝えしてきました。具体的には、建物の断熱化と再生可能エネルギーの自給です。「2050年までに温室効果ガスの排出を全体的にゼロにする(カーボンニュートラル)」というのが日本の方針ですし、現在のエネルギー問題を考えても、住宅のゼロエネルギー化は必須といえます。 

これまでカーボンニュートラルとは「気候変動という地球規模の問題を解決する」という、どこか漠然とした目標でしたが、ここへきて暮らしを守るために必要不可欠なものになってきました。
それも、なるべく早く進めたいところです。 
これまでのように電気をジャンジャン使っていくのではなく、電気や燃料の使い方を社会全体で見直す時であり、構造的に変えていく必要もあるでしょう。 
家計のためにも、地球のためにも、エアコンに頼らず建物そのもので快適な温熱環境を作るのが、これから求められる家づくりです。そうした背景から、工務店経営においても、これからの時代を生き抜くための戦略が必要です。 


◆等級4では足りない? 住宅断熱の現状  

先日、家づくりを検討している知人から、住宅展示場を訪れ断熱等級について尋ねたところ「そこまでの性能は必要ない」と言われたけれど、実際はどうなのか?という質問を受けました。私がずっと勧めてきた性能はHEAT20のG2レベル以上なので、現行の断熱基準からみれば最高基準(等級4)をはるかに上回る性能です。 
そこまで高い性能が必要ないか?といえば、答えはNOです。前述のように、電気をジャンジャン使う家はこれからの社会には適合しません。断熱等級4はたしかに最高等級ですがこれでは全然、物足りないです。 

とはいえ、現在の最高等級以上に性能を上げなくても良い、という商売の仕方もありといえばありですし、そもそも住宅の断熱には基準は設けられていますが義務化はされていないので、極端にいえば無断熱の家だって建てられます。その分コストが抑えられるのならば、それでよしという人がいるのも事実です。ただ、そうもいっていられません。 

今年4月、住宅を含むすべての新築建築物に2025年度から省エネ基準適合を義務づける「建築物省エネ法等改正案」が閣議決定しました。この義務化は過去に幾度か見送られていますが、昨今の世界情勢からみても、予断は許さないものの今回は実現するでしょう。 
この義務化で、現在最高である等級4より上の等級5~7も設けられることになります。住宅の断熱性能には今よりも上のランクがあることが示されるのは、とても良いことですし、アナウンスされた時点から住宅の質は向上していくことが期待されます。 


◆中小工務店に断熱住宅は作れない!? 

これまで義務化の話が出るたび、地域の中小工務店にはついていけないし、それゆえ市場が混乱するだろう、などと言われてきましたが、すでに断熱の必要性を理解しG1、G2レベルの家を建てている工務店はいくつもあります。 
人口が減少し住宅着工数は将来的に増加する見込みがない中、生き残りをかけた人たちがたどり着いた方針のひとつが「温熱環境の見直し」で、そうした工務店だけが、2050年に適合した、一歩先をいく家づくりを進めているのが現状です 。

そもそも2050年のカーボンニュートラルは、省エネ基準適合の義務化とは別の決定事項です。これから先も商売を続けていくのだとすると、もし義務化がないとしても家から出るエネルギーをゼロにする家づくりをしていかなければなりません。 
家電や自動車に比べて、家はもっと長く使うものなので、早めに切り替える必要があります。 
今良い家を建てておかないと、2050年には価値のない家になってしまうのです。 

これをピンチと考える人もいるかもしれませんが、私は大きなチャンスだと思っています。生き残りをかけ、自分たちの頭で考え、勉強し、動いて、すでに2050年を見据えた家づくりを始めている工務店が、今や、数年待ちの人気店となっている例は少なくありません。 

 
竹内 昌義
株式会社 エネルギーまちづくり社

株式会社 エネルギーまちづくり社 代表取締役。東北芸術工科大学 教授。株式会社 みかんぐみ 共同代表。一般社団法人 パッシブハウス・ジャパン 理事。1962年生まれ、神奈川県出身。東京工業大学工学部建築学科卒、同大学院建築学専攻修士修了。東北芸術工科大学教授。ワークステーション一級建築士事務所を経て、1995年長野放送会館設計競技当選を機にみかんぐみ共同設立。2001年より東北芸術工科大学にて教鞭をとる。代表作に山形エコハウス、HOUSE-M他。

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