住宅デザインを語ろうとするのは、とても難しいものです。その難題の住宅デザインについて、書いてみたいと思いました。できれば住宅の担い手である地域工務店の経営を観点にして住宅デザインを考え、工務店にもできるテクニックとしてまとめてみたいと思います。
連載14回目となる今回は、「デザインを向上させるテクニック⑥」というテーマをお送りします。
※前回記事はこちら(前回テーマ:デザインを向上させるテクニック⑤)
◆住宅デザインの最後の一画
これまで、グラフィックデザインの理論を活用しながら、住宅のデザインをシェイプアップする具体的テクニックを5回に分けて書いてきました。細やかなテクニックばかりですが、少しずつ感じる違和感を解消してゆけばデザインが向上することは間違いないはずです。
1棟、2棟、珍しいデザインの住宅を建てたからといって、新しいお客様が殺到するのであれば、どこの工務店も似たようなことをして成果を上げているはずです。もしかしたらデザインが市場を変える可能性もありますが、そんな事例を聞くことはありません。
また、短期的に実現できたように見えても、市場に飽きが来たら、次のヒットデザインを探さなければなりません。1回の開発でも難しいことを、続けて開発することは夢のまた夢です。
かといって、その小さなデザインの違いを、どれだけ顧客が認識してくれるでしょうか。
ゲシュタルトの心理が誰にでも備わっている感性であるのなら、違いに気づく顧客も必ずいてくれるはずです。そこはひとつ、信じて進めて行くしかありません。
そのためにも、できれば何らかのパターンを持つことが大事です。色・柄・材・質で、自社に特徴的な組み合わせを選んでおくこともお勧めしてきましたが、最初は目新しくても、やがて陳腐に感じてくると、珍しいデザインの住宅と似たように、結局、流行り廃りとなりかねません。
一方、点・線・面・寸を揃えてデザインを追求することに対しては、顧客ニーズとの戦いがあります。外観デザインが工務店の財産であると意識して、どんなにテクニックを凝らしても、思わぬところに窓が設置され崩れてしまうことも大いにあり得ます。
大昔に習った書道の先生が教えてくれた書のコツは、「書は失敗の連続で、いかにその失敗を挽回するか苦心すること」というものでした。最初の一画を完璧に書こうと思っても不完全に終わるもので、一画目の不完全をカバーするためにいかに二画目に集中するかであり、最後の一画まで重ねて初めて完成し、全体としての出来が決まると教えてくれました。
施工現場で嫌う「おっつけ仕事」にもなりかねない要素がありますが、一画一画を真剣に取り組まない限りは境地に達することは永遠にあり得ません。住宅デザインを向上させる次の具体的テクニックは、この最後の一画となるテクニックです。
◆ビバリーヒルズの家
たとえば、デザインの価値を次のように表現してみましょう。
予算1500万円の同じ予算で建てた家ですが、デザインが悪く安普請のつくりとなれば1000万円程度にしか見えず、逆にデザインを追求して他の人も欲しがる家に見えれば2000万円の家に見えます。デザインによって、価値の差は倍になります。
「高級に見える」ことも、売れるための住宅デザインの大事なビジョンです。
では、「高級住宅」とは何かを、その象徴でもあるアメリカのビバリーヒルズから探ってみましょう。
この簡単なスナップ写真の他にもアメリカの伝統的なコロニアル様式やジョージア様式、アーリーアメリカン様式、もっと古いコテージ風の住宅もあります。さらには様式を疑う個性的なデザインも散見され、決して街並みとして統一されているものでもありません。
もちろん、ビバリーヒルズのデザインというものがあるとも思えません。
同じアメリカの住宅地のデザインを見ると、街並みとしての統一感は維持されています。
この住宅写真は住宅デザイン・テクニック第4回でも紹介しましたが、
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